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恋人コンプレックス 5

八雲さんを先に自分の部屋に行かせ、オレは麦茶を用意していた。 自分のコップと客用のコップを取り出して、冷蔵庫で冷やしていた麦茶を注ぐ。 オレは昔から人を家に呼ぶより遊びに行くことのほうが多いから(家族がアレだし)、こうしてお茶の用意をするのは久しぶりだ。 覚束ない手つきでそれを部屋に持っていけば、八雲さんはベッドにもたれて床に座って待っていた。 「ベッドに座ってよかったのに」 勝手に人のベッドに乗らないあたり八雲さんらしいなと思いつつ、部屋の真ん中に置いてある小さな机にコップを置いた。 「一応な」 爽やかに笑った八雲さんは、「お茶ありがとうな」って言ってひと口飲む。 ベッドに座る気はないみたいだ。 別に八雲さんなら外出た服でも気にならないのに。 自分から座るしかないと思ったオレは、同じように麦茶をひと口飲んでベッドに乗り込んで座る。 膝を曲げて開いて、間にできた空間のベッドをぽんぽん叩いて八雲さんを呼んだ。 「そんな可愛いことされたら行くしかないだろ」 困ったように笑った八雲さんは立ってお尻を叩くと、ゆっくりオレの脚の間に収まった。 いつもはオレが八雲さんの間に入るから、なんだか変な感じ。 大きい八雲さんに後ろから抱きしめられるのも気持ちよかったけど、八雲さんの背中から伝わる温かさも気持ちいい。 腰に腕をまきつけて、その背中に顔を埋める。 ちょっと汗ばんだ八雲さんの匂いがして、心が落ち着いていくのがわかる。 「八雲さん」 「なに?」 「――呼んでみただけ」 もう、本当にしないでください。 って言おうとしたけど、あんまり言いすぎてもウザイだけだと思ったから言うのはやめた。 「そっか」 たぶん、八雲さんはオレが何を言おうと呼んだのか気づいてる。 とくに追求されることもなく、腰にまわしてお腹で組んでた手に、そっと八雲さんの手が添えられた。 「南から離れないよ――絶対」 「…ん」 八雲さんは組んでた手を器用に解いて、指を絡める。 「南」 「ん、なんですか?」 「キスしたい」 「……オレも、したいです」 八雲さんはオレに向きなおって座ると、密着させるように身体を近づける。 「舌、だして」 「ん…」 焦らすように舌先だけ絡めてきて、オレの口端からは飲み込めなかった唾液が零れだす。 八雲さんはその唾液を丁寧に舐めとって、唇に1回吸い付いてはすぐに離れた。 「ん、も…やくもさん…」 「そんなに物足りなかった?」 「たりない……八雲さん、たりない」 焦らされてキスをお預けくらったオレは、もうガマンなんかできなくて首元に腕をまわして抱きつく。 そのまま八雲さんの首筋にいくつかキスを落としてたら、肩を押されてベッドに倒された。 「だからさ、そういう可愛いことされると困るんだけど」 少しだけ余裕の表情が崩れてるのを見て、やっとスイッチが入ったことを確認した。 もう堪らなくうずうずして、無意識に舌舐めずりをする。 「もっと困ってよ、八雲さん」 八雲さんは目を見開いて驚いたのも一瞬で、オレが瞬きをした瞬間には完全にスイッチが入ったドSの顔に変わっていた。 「生意気」 それだけ言うと、両手の指を絡めてベッドに縫いつけるように固定される。 「っ、ん…ぁ…」 オレが言葉を口にする前に、八雲さんのキスでそれは塞がれた。 やっと望んでたキスをされて、オレのほうにもスイッチが入る。 ゆるく下が反応しているのを感じながら、しばらく八雲さんとキスができる嬉しさを感じていた。

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