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【番外編】警察犬は気づかない

ある夏の日、記録的な猛暑が続いていい加減溶けるのではないかと思った頃。 「……あ」 無意識にタバコを吸っていた。 火を付けてしまったものは仕方ないし、捨てるのももったいないからと自分に言い訳をして余すところなく吸いきった。 まさに反省してるけど後悔はしてない状態。 以前に比べて明らかに吸う本数は減ってきてるし、いい調子でこれている。これは本当。 ただ、この連日続く暑さがいけなかった。 あの世界的な天才と謳われるレオナルド・ダ・ヴィンチも、世界を震撼させた独裁者アドルフ・ヒトラーも自然には勝てない。 だから、俺が暑さにやられてタバコを吸うのも仕方ないはず。 我ながら幼稚なことを考えるなと自嘲しつつ、そろそろ来るであろう恋人のことを考えて溜め息をついた。 今までタバコを吸ってしまったとき、南にバレないようにといろいろな対策をしてきた。 でも南は警察犬みたいに可愛らしい鼻をぴくっと動かし、俺の首元を嗅いだあとじっと瞳を見つめてくる。 この時本当に取り調べを受けているような気持ちになるから、とてもじゃないけど気が気じゃない。 俺の瞳を見つめたあと、南はそのままこう言う。 「八雲さん、タバコ吸ったでしょ」 だからほら、今日も観念してイエスと言うしかない。 「……ご覧の通り?」 「なんで疑問形なんですかー」 頬を膨らませて「まったくもー」って言い、ソファに座ってる俺の脚の間にすっぽりと収まる。 「禁煙期間、今までで最長でしたよね?」 「いい調子でこれてたんだけど」 「でもテレビ観ててダメだなって思ってました」 暑さに耐えられず吸うだろうと思われていたと知って、なんとなく負けた気分になって少し居心地が悪い。 南の仰る通りなんだけど。 「吸いたくなった時に南とキスできれば続くかもな」 なんて冗談半分で言えば、後からでもわかるぐらい耳を真っ赤にさせていて。 照れているのが目に見えてわかると、ちょっとした嗜虐心が生まれてくる。 南にどういうちょっかいを出そうかと考えていたら、やっぱり顔を真っ赤にさせて、瞳にも少し涙を溜めた状態で振り向く。 ヤバイ。 こういうときの南は、いつも理性を飛ばしてくるような可愛いことしか言わないから。 言いたいことがあるならどうぞ、とにっこり笑えば観念したように口を開く。 「今は、したくないんですか…?」 俺の太ももに体を少し乗せて、顔の距離を狭めてきた。 「オレはいつでもしたい、です。八雲さんと」 「日に日に可愛さとえろさを増していくのやめてくんない?」 南とキスできるように背中を曲げて、誘うように舌を少しだけ除かせたそこに、吸い付くように唇を重ねた。 ちゅ、ちゅと堪能していると逃げるような素振りを見せるから、頭の後ろに手を回しす。 いつまでも恥ずかしがって逃げようとする南が可愛い。 さすがにそれそろ慣れてもいいかなとは思うけど、この初な反応が好きだ。 「んっ…」 今まで基本受け身だった南が、真似るように俺の舌を吸う。 こんなことなかったから少しびっくりしたけど、南もやっと慣れてきたってことなんだろう。 自分の中のSなスイッチが押されたけど、ここは南の好きにさせたほうがいい。 舌の力を抜いたら、南が貪るように唇と舌を動かし始めた。 ぎこちなさが伝わってくるけど、そこが南の可愛いところで。 「ん、ふ…んぅ…」 その健気に頑張ってる姿が一段と可愛くて、正直もう勃ちそう。 「っ、はぁ…」 充分堪能したのか、少し満足そうに俺から離れた。 ぺろっと自分の唇を舐める姿は扇情的で。 そんな南は考え込むように目をつむったあと、うんうんと納得したように頷く。 「やっぱり」 「なに?」 「オレ、八雲さんの少しタバコの味がするキス、好きです」 「……お前さ、俺に禁煙させる気あんの?」 「え?」 「だよなぁ」 不思議そうに首をかしげる南がおかしくって、堪えられず微笑しながらもう一キスをした。 ▽5月31日:世界禁煙デー がんばろうね。

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