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【番外編】君を予約

この前の大雪のときに降った雪がまだ路肩に残る今日この頃。 オレは放課後、いつも通り八雲さんのアパートに来ている。 いつも通りしゃべって、いつも通りごろごろして、いつも通りそういう雰囲気になって、いつも通り身構えてたら。 「愛してる南。ずっと俺と一緒にいて」 と、おもむろにオレの左手をとって薬指に唇を落とされた。 いつもと違った流れにドキドキして、八雲さんが離れたあとの薬指をまじまじと見る。 そこには、うっすらと赤い印が残されていた。 「あ、あの…これ…」 「そこの指、予約ってことにしておいて。いつかちゃんとした指輪プレゼントするから」 もう一度、左手の薬指にキスをされてオレの心臓は破裂寸前。 バクバクとうるさく音を立てて、全身は炎に包まれてるかのように熱い。 同性だから結婚とかはできないけど…八雲さんとずっと一緒にいることはできる。 今が幸せすぎて将来のことを考えるのが少し怖かったけど、こんなことされたらずっとずっと、八雲さんから離れるわけにはいかない。 「変えたら、また付けてください」 もっとときめくようなことが言えないもどかしさを感じつつ、それでも今の精一杯の返事を八雲さんは笑顔で受け入れてくれた。 「オレも付けたい….八雲さんの、薬指」 八雲さんは嬉しそうにくしゃっと笑って、快く左手を出してくれる。 その手を両手で優しく包んで、ちゅ…と吸い付いてみる。 「ん…んぅ…」 唇を離すときにちゅぱっと男が鳴る。 八雲さんの指を見ても、唾液が少し付いてるぐらいで赤の印は見当たらない。 「む……」 「もう、それ以上、可愛いことするの、禁止」 「わっ!?」 気がついたときには八雲さんに組み敷かれてて、久しぶりに見る狼の顔をしていて。 「俺がこうなるの、ほんと南のせいだから」 その夜はひんひん鳴かされて、左手の薬指には真紅の花が色濃く残された。 ▽1月28日:求婚の日 プロポーズのプロポーズ。 書くか迷ったのですが、やっぱりここはいっておかないとと思い… 遅刻しましたが、楽しんでいただけたら幸いです。

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