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希う 1

今日は八雲さんと水族館デートの日だ。 オレの隣にいる八雲さんは、白のポロシャツにライトグレーのテーパードパンツ、靴はビーサンっていう至ってシンプルな服装。 でも卒なく着こなしちゃうあたり、本当にかっこいいし男として憧れる部分でもあったり。 オレはシャツにハーパンで、八雲さんに比べたらちょっと子どもっぽい服装。 兄曰く。 「年下で高校生ということを活かして若さを全面的に押し出せ」 らしい。 なるほどムリして大人っぽくしなくても、オレには若さという武器があるのかとひどく納得した。 そのことを八雲さんに言ったら「ムカつくけどよくわかってる」と悔しそうに言ってたから、喜んでくれたみたいだ。 八雲さんはそうだ、と言ってつり革に掴まりながら閉じていた瞳を開けた。 「なんでまた水族館に行きたいって思ったの?」 「夢です」 「夢?」 両手でつり革を持ったままこてんと首を傾げる。 まだ眠いのかな、瞳がちょっととろんとしてて可愛い。 「夢で見たんです。あんまりよく覚えてないけど…残りの夏休みで八雲さんと行きたいなって」 「もちろん、南の行きたいところは俺も行きたいよ」 なんて甘い顔と声で言うから、恥ずかしくないわけがない。 ほら、なんなら周りの人たちすらざわついてる。 余計恥ずかしくなって赤くなった顔を見せないように下を見てたら、クスクス笑いながら小声で「可愛い」と言ってくる始末。 もう、ほんと、八雲さんは公衆の場でも容赦ない。 オレもやられっぱなしなのはなんだか癪だから。 「八雲さんがオレの隣にいてくれたら…どこでも…いい」 余裕の笑顔で言うつもりが思ったより恥ずかしくて、途中で照れてしまった。 こんなのオレが余計に恥ずかしくなっただけだ。 ゆっくりゆっくり八雲さんを盗み見れば、ちょっとギラつかせた目をしていて。 慌てて視線を逸らそうとしたら名前を呼ばれた。 もう1回チラっと八雲さんを見れば、口元が動く。 ――抱きたい。 「~っ」 やば、もう腰抜けそう。 ▽希う 読み:こいねがう

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