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【番外編】吾輩はネコなのか?

いつも通り八雲さんの家に泊まって、頭と尾てい骨のあたりがなんかムズムズして自然と目が覚めた朝。 「なっ…な、なんじゃこりゃーーー!!」 顔を洗おうと思って洗面所へ向かい、鏡に映る自分を見てマヌケなでかい声をあげた。 夢?夢かこれは? 心臓がバクバクとうるさい。 変な汗も背中を流れるのがわかる。 オレの頭に生えてるそれ――ネコ耳が、ぴくぴくと自我を持ったみたいに動く。 っていうか、自分の意思で動かせる…。 八雲さんのいたずらかもと思って根本を確認するも、どう考えてもオレの身体の一部としか思えない。 し、信じられない……なんでこうなったんだ? 「ふにゃ!?」 よろよろと後ずさったら、お尻のあたりから刺激が波のように伝わってきた。 今のふぬけた声で八雲さんが起きないようにと祈りつつ、恐る恐る後ろを確認。 あった、やっぱり、あってほしくないものが! ふわふわと揺れ動くしっぽを見て、オレは自分がネコになったんだと受け入れた。 でもなんでこうなったのかが本当にわからない。 まったく心当たりもない。 いや、あるほうがヤバイか…。 とにかく、非常にヤバイことになった。 こんなの恥ずかしくて外に出ることはおろか、八雲さんにも見せたくない。 誰にも見られずに自分の家に帰らなくちゃ。 耳は八雲さんのパーカーを拝借してフードを被ればなんとかなりそう。 問題はしっぽなんだけど、試しにズボンの中に収めるようにしまったら、苦しくてガマンできそうにない。 それに、もぞもぞと動いちゃうからUMA認定されかねない絶妙な気持ち悪さがある。 うじうじ悩んでも仕方ない。 まずは八雲さんにバレないように、かつ不自然にならないようにここから出よう。 「んっ……」 最初の一歩がまさかの大難関で頭を抱えるけど、ネコ耳に当たるたび声が漏れる。 こんなところ八雲さんに見られたら……だめだ、想像したら壮絶すぎて背筋がぶるっと震えた。 ここで時間をつぶしてたら八雲さんが起きてきちゃう。 人生で一番精神を集中させたと言っても過言ではないぐらい、「オレは酸素…オレは酸素…」と念じながらあらゆる音を遮断してゆっくりと歩く。 ベッド脇まで順調に来れた。次は音を立てずに着替えなきゃ。 「失礼しまーす…」 と小声でクローゼットを開けて、パーカーを探す。 ありがたいことに、お目当てのパーカーはハンガーにかけられてた。 これがチェストに入ってたらリスクが増してたな…。 息を殺して、今着ているスウェットを脱ぐ。 「ぁっ……っ、」 脱ぐときネコ耳に引っかかって、声が漏れる。 それに…ちょっと感じちゃって少しずつ身体から力が抜けていく感覚…これは、まずい。 「ふっ……にぁ……!」 声をなんとか最小限に抑えて、やっとスウェットを脱ぐことに成功した。 脱ぐだけなのにすごい時間かかったし、めっちゃ疲れた。 家を出るまでのシミュレーションをしっかり描いたのに、早々にくじけそう。 八雲さんのパーカーは大きいこともあり、一気にすぽんと頭を通すことができた。 「ん…、みなみ…?」 「っ!」 八雲さんはベッドの上で目をこすり、オレの名前を呼ぶ。 ヤバイどうしようって考える暇もなく、フードを深く被ってベッドの中に潜りこんだ。 布団の中に頭まで入り、二度寝してくださいお願いしますって念じるけど。 「みなみ……なんで俺のパーカー着てるの?」 泣いた。 さすが八雲さん、気づくの早すぎ。 もう時間の問題かもしれないけど、バレないで済むならそうなってほしい。 「………なんとなく」 真っ赤な顔を見られたくなくて、八雲さんに抱き着いて顔を隠す。 「朝からそんな可愛いことされると、困るんだけど」 くすっと八雲さんは笑って、オレの頭のほうに手をのばしてきた。 もうダメだ、隠し通すことなんてできるわけがない…。 「んにゃ…っ…」 抵抗せず八雲さんに撫でられるのを待ったら、やっぱり声なんか抑えられるわけなくて。 「……南?」 「ぅー……」 我ながら少しネコの威嚇みたいだ、と思うような声が出て八雲さんを見上げる。 そんなオレに何かを察したのか、八雲さんのドSスイッチが早速押されたみたいで。 「ねえ、そのフードとって?」 って、八雲さんがとってくれるほうが気持ち的に楽なのに、オレが自分でやれって言う。 「ほんと、いじわる…」 「南にだけ。ね、早くとって見せて」 「あ、あんまりじっと見ないでくださいよ…」 フードに手をかけて、少しずつ後ろへ行く。 「っ……」 ネコ耳が擦れて、変な声が出そうになるのを唇を噛んで抑える。 ひょこっと片耳が出たときに、八雲さんがびっくりしたのが伝わった。 フードを全部とって、恐る恐る八雲さんを見上げる。 「とりました、けど」 「ねえ、ヤバイんだけど……すっごく可愛い」 さわっていい?って聞かれて小さく頷く。 優しく耳を撫でられて、なんだかふわふわしたよいうな、だけどむずがゆい不思議な感覚になる。 「んー……んにゃ……」 気持ち良すぎて、このまま眠れちゃいそう。 あれだけ見られまいって思ってたのが不思議なぐらい心地いい。 「しっぽも動いてるけど、気持ちいい?」 「ふあっ、」 不意打ちでしっぽをきゅっと掴まれて、思わず甘い声が漏れる。 それに気を良くしたのか、さわさわとしっぽを撫でられて。 「あ…ちょっと……んぅ、…っ……」 ぞわぞわっと背中が震えて、どんどんやらしい気分になる。 もっと触ってほしいって頭がいっぱいになって、無意識に身体を八雲さんに擦りつける。 「可愛い、南……もっとにゃあって鳴いて」 そんなお願い、いつもなら恥ずかしくて嫌ですって言うのに、もう頭はふわふわでとろとろで、八雲さんの求めるものはなんでもしてあげたいっていう思考になってて。 「にゃ、ぁ……にゃあっ…」 「可愛すぎ…今日はずっとにゃあって鳴いてて。普通の声だしたら、お仕置き」 「んえっ、?」 「だーめ。さっそくお仕置きな」 「ちょっ、と、待って、やくもさ――」 「しっぽでイける?」 「〜っ!」 にひるに笑った八雲さんから逃れられるはずがなぐ、その日はにゃあにゃあとひたすら鳴かされたのは言うまでもない。 ▽2月22日:ネコの日 ネコ耳着けさせるのとすごく迷いました。

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