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ほどほど注意報
学校が始まるまでもう残り僅かとなった、高校2年生の夏休み。
オレの学校の文化祭は夏休み明けの9月にあるから、夏休みの最終週あたりからみんな自主的に準備を始める。
学校が始まるのは嫌だけど、なんだかんだ皆クラスメイトに早く会いたいんだ。
今日は午後からクラスの集まりがあるから、さっきまで八雲さんちに寄ってひと眠りしてきたところ。
起きたらオレの首元に顔をうずめて眠ってる八雲さんがいて、ちょっとびっくりしたけどすごく可愛くて学校に行きたくなくなって。
そういえば、兄ちゃんとかに八雲さんの寝顔の話が可愛いってことを伝えたら「俺でもあまり八雲の寝顔を見たことないから、相当レア」って言われた。
オレには完全に心を許しているってことがわかって、それ以来八雲さんの寝顔を見るたびに幸せで胸がキュってする。
八雲さんの可愛い寝顔を思い出してにやついてしまう顔を隠し、オレは自分の教室に入った。
「おー南久しぶり」
「あは、お前焼けすぎじゃね?」
教室に入れば、さっそくクラスメイトが話しかけてくれる。
「そーゆーお前はイチャイチャしすぎ」
なんて突然言われるから、一瞬本当に心臓が止まって息が詰まる。
「はっ…え…?」
「ここ」
そう言って人差し指で自分の首筋をトントン叩く。
「まったくいつも見せつけられちゃあさ」
オレは慌てて首を手で隠す。
なんで!いつの間に?
クラスメイトはにやにやしながら「ほどほどになー」と言って教室から出て行った。たぶんトイレにでも行くんだろう。
てか、オレもトイレの鏡で確認したいんだけど…。
いつもならオレより早く来ていることが多い柳は、こういう時に限ってまだ来てない。
ずっと首に手を当ててるのもおかしいし、でもトイレに行ったらさっきのクラスメイトがいるし。
とにかく、ここで立ち止まっててもおかしいし荷物を置きに席に着く。
ちょっと面倒くさいけど違う階のトイレに行こうとしたら、タイミングよく柳が教室に入って来た。
「柳!」
「うわ!?なに、なんなんだよ」
待ってましたと言わんばかりに、柳に抱き着く。
「大丈夫?八雲さんに殺されない?」
「ねえ、首、見て」
「は?あーこれは目立つな」
八雲さんキスマーク付けるのうまいなって言いながら、柳はオレの首を見る。
そう。うまいんだ、うまいんだけど今はそうじゃない。
「てゆーか、これ」
「え、なに、なに!?」
オレの首元をじーっと見たまま、柳は固まっちゃって。
ヤバイものでも付いてるんだろうか…何かしゃべってくれないと困る。
「お前、絆創膏とか持ってないよな?」
「ないけど…あ、でもかゆみ止めのパッチならある」
「まあそれでいっか」
指でついてくるようにジェスチャーした柳は、荷物を自分の机に置いて今度はオレの席のところまで来た。
柳は顎をくいっと上げる。会話の流れからして、かゆみ止めのパッチを出せということだと思う。
リュックの中からかゆみ止めパッチを取り出したら、柳が手を差し出してきたからそれを渡す。
「こっち」
今度は教室の後ろ隅っこのほうまで行って、オレが角になるように誘導する。
「八雲さん爽やかなイケメンのわりには、すごいよな。独占欲」
「オレは嬉しい」
「はいはいそうでした。でもけっこうヤバイから、1枚貼らせて」
制服のワイシャツをちょっと捲って、パッチを1枚ぺたりと貼る。
「うーわー、すごいわこれ」
襟をぐいっとされてマジマジを見られる。
いくら幼なじみとはいえ、八雲さんが付けてくれたキスマークをこんなに見られるのは恥ずかしい。
「もう見んな!」
「八雲さんに殺されちゃうしな」
ケラケラと笑ってぱっと手を離してくれた。
柳はいちいちからかってくるけど、でもオレが男の人と付き合ってることをすんなり受け入れてくれたし、本当にありがたいと思う。
うざいから、本人には言わないけど。
「そろそろ時間なのでみんな席ついてくださーい」
学園祭の実行委員が前に立ってみんなに呼びかける。
「ま、一応気をつけとけよ」
「うん。ありがとう」
全員が席についたことを確認した実行委員は、今日こそ出し物を決めるからなと意気込んでいた。
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