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「んんぅ、やぁん!!」
「テツ…っ」
「ぁあ゙っ、あ♡、ひぐっ」
膝をついて少し腰を浮かせ、繋がったままで、市村の腰も同じように浮かせるように持ち上げてやる。
背中だけシーツにへばりつけて胸を開き、脚も開いたまま局部を前に差し出すように浮かす市村の姿はとても煽情的で卑猥だ。
かねてからそうしたかったように、容赦なく奥を目掛けて、中を抉るように激しく突き上げる。
「ひぎ…っ♡、んあ、せんせぇのおちんちんおっきいよぉっ…!!♡」
市村は、シーツに爪を立てて、強烈な快感に耐えた。
奥の弁に、張り詰めた笠がごりごりと押しあたる。いつかはここもぶち抜きたい、と土方は思う。
「うぁああっ!っお、おかしくなっちゃう…っ♡!!」
つま先を丸めながら、止まないばかりか激しさを増すピストンを全身で受け止める市村は、ゆさぶられながらいやいやと首を振って、快感にぼろぼろと泣いていた。
電流が走るような強烈な気持ちよさに、気を抜けば意識がどこかへ持っていかれそうになってしまっている。
「ん?めちゃくちゃになりたいんだろ?」
「んくっ…、んっ」
気持ちよさに顔をぐしゃぐしゃに歪ませて、泣きじゃくりながら必死に何度も頷く市村に、飽き足らない情欲が掻き立てられてしまう。
こんな顔にさせるのはオレだけでいい。
世界でオレだけがこの顔を知っていればいい。
こいつを暴くことを許されているのは、この世でオレだけだ。
破壊衝動にも似た愛しさに目がくらみそうになる。
「テツの全部、オレにくれよ」
土方は、指の腹で市村の涙を拭ってそう言った。
「愛してるよ、テツ。オレのこと好き?」
「すき…っ、すきです…!ぜんぶ、すき…っ!」
激しく腰を打ち付けてやれば、あどけない少年の面影を残す体は快感に震え、嗚咽まじりの嬌声を上げる。
――思いの通じ合ったセックスというものは、これほど気持ちいいものだったのか。
土方もまた、初めての経験を確かにしている。
「ぁあ゙あっ!だめえっ…!!おく…っ、ごりごりしな、で…っしんじゃうよおっ♡!!」
「あー…、すげえ締まる」
されるがままに、がくがく揺さぶられているその体は、一つになっている喜悦と快感に打ち震えている。
泣きながら喘ぐ市村が眉根を寄せ、開きっぱなしの口から涎を垂らして訴えてくる。
「せんせぇ、もう…っ、ぼく…!」
「もう限界か?」
土方がそう尋ねると、市村は必死に頷いた。
市村のペニスも限界を伝えるように、先端からとろとろと絶え間なく蜜を溢れさせている。
「ゆるして、くださ…っ…」
「ああ、わかったよ」
そう言うと土方は、市村の両腕を引っ張り、激しく腰を使って彼を追い詰める。
感じるしこりを何度も押し上げられ、一際深いところを穿たれた瞬間、市村は大きく仰け反った。
「~~~~~ッあ゙♡!!」
びくびくと全身を痙攣させて、市村の陰茎から白濁が迸る。
腹に垂れ落ちて、臍に溜まって滴った。
「はぁっ、オレも限界。イくぞ、テツ…!」
まだ、ぴゅくぴゅくと弱く射精したまま、糸が切れたようになっている市村を、欲望に任せ最後に激しく揺さぶって、土方が低く呻く。
「っう、出る…っ」
息を詰め、大きく突き上げたあとで、動きが止まる。
土方の腰がぶるりと震えて、奥まで突き刺さっている、ゴムに覆われた陰茎が、断続的に熱を吐き出す。
市村は、自分の中で爆ぜた欲望を被膜越しに感じた。
ぐずぐずに蕩け切った中で、土方のペニスがどくどくと脈動している。
「んぁ、ふえ…っぐ、せんせ…」
市村は、涙と涎とでぐしゃぐしゃになった顔で抱擁をせがんだ。
両手を力なく広げ、涙を侍らせて潤んだ眸で見つめてくる。
息を荒げたまま、快感がまだ抜けきらない様子だ。
「ごめんな、無理させて」
「んっ、んっ…っ」
前かがみになった土方の首に、市村は嗚咽しながら手を巻き付けて、小さい子供が甘えるみたく抱きついた。
「泣かないでくれ、テツ。悪かった」
土方は、市村の涙を舐めとりながら、自分に縋り付いてまだ少し震えている小さな体を、力いっぱい抱きしめ返した。
互いの体温を感じ合うようにしばらく抱擁し、それから土方はペニスをゆっくり抜くと、ゴムを外して処理した。
一つになったあとの気だるさが、市村となら心地よく感じられる。
泣き腫らした目で横たわっていた市村が、目元を拭いながら土方に寄り添って言った。
「…先生、僕、先生と付き合えて嬉しいです。エッチの時の先生はちょっと怖かったけど、でも幸せだから、僕、泣いちゃいました」
そう言われて土方は年甲斐もなく、胸が、きゅっと切なくなった。
たった今、自分が汚してしまってもなお、彼は純真なままだ。
とうの昔に忘れたものを、思い出させられる。
結局、市村の初体験を、一生の思い出になるくらいロマンチックなものにしてやろうとしていた考えが建前のようになってしまった。
始まってしまえば、己の欲望のままに彼を貪ってしまった不甲斐なさが残る。
理性が仕事をしなかったというより、意図的にさせなかっただけという自覚もある。
市村は、幸せを感じたから泣いてしまったと言った。
抜き身のナイフのようにギラギラとして向けられた欲望に、されるがまま喰われたことが怖かったからではないと暗に言ってくれているのが分かって、どうしようもなく申し訳ない気持ちと、愛しさが込み上げる。
同時に、これが満ち足りるということなのかと思う。思わず深いため息がでてしまった。
「…やっぱ可愛いよ、お前」
市村の、額、瞼、鼻の先、頬、それから唇に、土方は何度も優しく口づけた。
軽いリップ音を立てて、厚めの唇が離れると、市村が小首を傾げて言う。
「…先生って、キスが好きなんですか…?」
「ん?テツ限定だよ。それに、愛してるやつには何回だってキスしたいもんだろ」
そう言いながら、土方は市村を全身で包むように抱き寄せて背を丸めた。
言葉もなく伝わってくる市村の体温が温くて、うとうとと眠気がさしてくる。
…幸せだ。
その幸福感の重みで瞼が下がる。
残り少ないオイルランプの明かりが、遠い夜景の灯火を思わせながら揺れている。
…〝あの日〟もこうして二人で、どこかの街の明かりを見下ろしていた気がする。
別れの言葉を交わしながら。
無いはずの記憶が、まどろみの中を揺れるように過って、土方は静かに眠りに落ちた。
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