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3ー2
肌寒さを感じて、身を捩る。
薄目をぼんやりと開ければ、目の前で寝息を立てている市村の、安穏とした寝顔が見えた。
その顔を見つめていると、ほどなくして彼はむずがるように蹲り、そのあとでゆったりと目を開けた。
「…おはよ」
そう言って、市村の寝乱れた、自分と一緒の黒髪をくしゃくしゃかき混ぜてやると、照れくさそうに笑いながら、おはようございますと返された。
思えば、シャワーも浴びないままもつれ込んで、行為のあとそのまま寝てしまった。
余裕がなさ過ぎたかと反省したくもなるが、ここは目を瞑る。
ベッドサイドのランプもオイルがとうに切れて、カーテンの隙間から差す僅かな日の光を、部屋の中に小さくキラキラと乱反射させていた。
生まれたままの姿で、情を交わしたベッドの上、二人だけでクリスマスの朝を迎えられる幸福感が互いの胸に募る。
「…指輪でも買いに行くか」
「指輪?」
土方が突拍子もなくそう提案したので、市村はきょとんとした。
言った本人が、あまり装飾品らしい装飾品を普段から身に着けているところを見たことがないから、余計に疑問符が浮かんでしまう。
「嫌か?ペアリング」
「えっ」
土方は、微笑みを浮かべると市村の左手を取って、薬指の付け根を揉むように優しくなぞった。
頬を赤くした市村だったが、そのあとで少ししょげたように眉を下げる。
「でも僕、あんまりお金ないから…」
「いいんだよ。オレがプレゼントしたいと思ってんだから」
「だけど、僕だけが貰うんじゃ不公平ですよ」
「じゃあ、ずっとオレと一緒にいてくれ。それと引き換えでいいから」
そんな…、と言いつつも、面と向かってそう言われると思わず嬉しさが込み上げてしまう。
指輪をプレゼントされるのが嬉しいというより、一緒にいてほしいと改めて言われたことのほうがより嬉しい。
市村は、ぎゅうっと土方に抱きついた。
急にどうした、と笑う土方に、照れ隠しで、なんでもありません、と顔を伏せて答える。
多分、すごくにやけてしまっている気がするから、見られるのが恥ずかしい。
「オレは多分、お前が思ってるより独占欲強いからな。ずっと独り占めする気でいる。覚悟しろ」
「独り占め、ですか」
「嫌か?」
「いいえ。…僕も、先生を独り占めしたいなあって」
土方が、もうしてるよ、と言うと、市村はいつものように笑ってみせた。
そうして嬉しそうに頬を摺り寄せてくるから、可愛らしくて堪らない。目に入れても痛くないというのはこういうことを云うのだろう。
土方は、市村に耳打ちするように囁いた。
「一生離さん」
そのまま市村を仰向けにして、ベッドに縫い付けるように手を絡めると、上から覆いかぶさる。
アメジストのような色味の眸が、いつもと変わらぬ無垢さを湛えて真っすぐに見つめてくる。
額と額を合わせ、ゆったりと唇を重ねる。
重なる体温が、互いに手離してはいけないものを優しく切なく教えてくれていた。
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