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第38話 発情期と王子 ※
王子の隣の部屋に越してきてから、約1ヶ月が経とうとしていた。王子は軍議や他国の侵略のための遠征続きで、僕とはほとんど顔を合わせることはなかった。その代わり、世話役のきなこくんがいつも僕の話し相手をしてくれたり、ご飯を用意してくれていた。
僕はいよいよついに、自分にはオメガとしての魅力がないから、王子に抱かれないのでは……という不安に襲われるようになった。
その日の晩、夕食を食べ終えアザラシの身体になって僕と遊んでくれるきなこくんをむにむにしていた頃。
きなこくんほんとに、ほわほわの毛と、身体がむにむにっとしていてあったかいんだよね。
頭の奥がずうんと響くような。偏頭痛のような症状に襲われ、きなこくんに頭痛に効く薬茶を飲ませてもらい、ベッドに横たわっているときだった。
「……あっ……ぐっ」
ばくんばくんと、今にも破裂しそうなほどの鼓動の速さ。月に1度の発情期が来てしまった。天上の国に来てから、初めての発情期だった。
下半身は痛いくらいに張り詰めている。僕の手は、躊躇なく下着の中に入り込み自身を慰め始める。この時ばかりは自分が嫌になる。性欲に忠実すぎる頭と身体。僕の発情期の場合は、ひたすら自慰に耽るか、泥のように眠るかの2択しかない。お腹は空かないし、身体は熱くてしょうがない。
「っあ……ぁ」
下着の中で吐精する。独特の匂いが部屋の中に広がってしまう。出したものを滑りにして、今度は後ろに指を持っていく。
ーージスが指でしてくれたみたいに……。
自分の指を3本飲み込んだそこは、まだ物足りなさそうにヒクヒクとしている。
ーーもっと、太くて、大きくて、熱いの挿れてよ、ジス……。
脳内で甘く響きわたるジスのあの、優しい声を思い出していた。だから気づかなかった。僕を凝視する王子の目線に。
王子にのみ、僕の部屋の鍵を持つ権利があるときなこくんから説明を受けた。鍵を開けて入ってきたのか。いつ部屋に入ってきたのだろうか。王子は僕のことを部屋の入口から見下ろしている。その目がギラギラと光っている。僕の発情期のときに出るフェロモンが、アルファの本能を興奮させてしまうのだ。
王子は僕のほうへ静かに近づいてくる。僕の身体はもう自制することができない。
ああ、もう終わりだ。激しく抱かれてしまう。まだ、好きかどうかもわからない人にーー。
王子は僕の背中から腕を回して横になる。ぽん、と頭を撫でられ、背中をトントン、と優しく叩かれる。
「?」
襲われるような気配は感じない。
「辛かろう。俺が手助けしてやってもいいんだが。触っていいか?」
優しげな声にきつく縛っていた心の紐が解けるような心地がした。僕はコクンと小さく頷く。
王子は僕の首筋を舐めながら、僕の蕾に指を出し入れする。最初は中指だけだったが、あっというまに王子の3本の指を飲み込んでしまう。
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