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第49話 初めての妊娠
その日以降、王子は度々夜になると僕の部屋に出向き、行為を行った。それはとても甘く、満たされる時間だった。
「……ん」
朝、目が覚めると腹部に違和感があった。それと、身体が火照って熱っぽい。きなこくんに妊娠検査薬を持ってきてもらう。どうせいつもの陰性だろうと思っていた。けれどーー。
妊娠検査薬の結果は陽性だった。
きなこくんにそれを伝えると、優しい笑みを浮かべながら僕のお腹をそっと撫でてくれる。
「阿月様。おめでとうございますでち。早速、シュカ王子に伝えなくてはでちね」
心の底から祝ってくれるきなこくんとは違い、僕の心はもやがかかっている。
ついに王子の世継ぎを妊娠したんだ。計画通り、無事にこの子を産めば、ジスのもとへ帰れる。冥界はいつしか僕の故郷になっていた。
きなこくんから話を聞いたのか、王子が朝1番に僕のもとへ駆け寄る。
「お前が妊娠したと、きなこが……触っていいか?」
「うん」
そっと、差し伸べられる手のひらが僕のお腹を撫でている。
「そうか。この子は……俺の宝になる」
「……王子」
「出産まで10ヶ月はかかるだろう。その間は安静にしておくんだぞ。産婦人科の医師も付けよう。無事に俺の子を産んでくれ。阿月」
去り際に僕の唇にふに、と軽く口付けを落とした王子の後ろ姿を目で追いかけていた。
いつかは妊娠するものだと、なんとなく感じていた。それが現実に起こるなんて……。シュカ王子の子どもを妊娠できたのは嬉しいことだけど、初めての出産だから不安で胸がいっぱいだ。
そんな僕の様子を察してか、きなこくんが
「何も心配しなくてよいでちよ。僕もサポートしますでち。阿月様は、妊娠生活をストレスなく過ごしてほしいでち。妊娠中は発情期は来ないですし、安心して過ごせますでち」
「そっか。ありがとう」
発情期が来なくなるのはとても助かる。毎月のあのしんどさを回避できるのは有難い。僕も自分のお腹の辺りを撫でてみる。
ここに、僕とシュカ王子の子どもが眠っているんだ……。無事に産めるだろうか。
それから半年間ほど、僕はきなこくんに付きっきりで様子を見てもらった。お腹はどんどん膨らみ、いよいよ自分が妊夫だと理解し始める。お腹が重くて動きづらかったり、歩くのも腰がしんどかったり。そんなときも、傍で僕を支えてくれたのはきなこくんと、シュカ王子だった。
シュカ王子は寝る間も惜しんで僕の部屋で過ごし、ただただ僕のお腹を撫でたり、お腹に耳を近付けたりして見守ってくれている。
今はその優しさが、僕にとっては痛い。
僕には無事にシュカ王子の世継ぎを産み、1歳になるまで天上の国で育て、1歳の誕生日の日になったら冥界へ連れ帰るという使命がある。
それまでは例え仮初の家族でもいいから、夫夫になり、子を産み、子育てをするという、オメガとしての幸せを噛み締めていたい。こんな経験はきっと1度目の人生ではできなかっただろうから。僕は改めて周りの人々に感謝の気持ちを持つようになった。僕とシュカ王子を支えてくれる医師ときなこくんに。
そうして懸命に生きようとしている、この子のために。
Ωに生まれて良かったなんて、1度目の人生では1回も思ったことはないけど、この世界に来てからずっと、僕はΩに生まれてきてよかったと何度も思う。
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