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第50話 初めての出産

「っ……」  それは、出産予定日の5日前に来た。ベッドで横になっていたら、腹部がぐぅっと押し込まれるような痛みに襲われ、声も出ずに悶えていた。僕の様子を傍で見守ってくれていたきなこくんが、すぐに産婦人科の医師を呼び、病棟に運ばれる。その間、僕の脚の間からは破水したのか羊水か溢れていた。  腰が重く、「うーっ」と声を出さないと耐えられない痛みだった。医師が僕の身体の様子を見て、 「すぐに産まれます。シュカ王子を呼びます。阿月様は、呼吸を整えましょう。さぁ、一緒に。ふー。ふー」  きなこくんが王子を呼びに行ったらしい。僕は医師と2人きりで、呼吸を整える。陣痛は少しづつその感覚が短くなり、いきんでしまえば赤ちゃんがすぐに産まれそうな予感がした。 「阿月……待たせたな。すまない。大丈夫か? 痛むか?」 「シュカ、王子……」  早足で来てくれたのか、王子の息が上がっている。僕の瞳にたまった涙を指で掬いとると、僕の手のひらをぎゅ、と握りしめてくれる。 「俺が来たからには何も心配しなくていい。頑張れ。阿月」 「……うん」  王子に背中をさすられながら、僕は医師の指示通りいきむ。はぁ、はぁと息を切らして、呼吸を整えること1時間近くが経過した。 「おぎゃぁぁああ」  僕と王子の子どもの初めての泣き声だった。僕はもうほとんど意識が飛んでいて、ひたすらに赤ちゃんを抱っこしていることしかできない。王子が僕の頭を撫でてくれる。僕は1度、病棟で療養することになったため、赤ちゃんと一緒に病室に入った。  赤ちゃんは待望の男の子だった。体重は3068gで、目がぱっちりの二重だ。きっと王子の遺伝だろう。  傍では、シュカ王子が僕らの赤ちゃんを抱っこしてあやしているところだった。泣き疲れてしまったのか、赤ちゃんはぐっすりと眠っている。  病棟の人に支えられながら、2週間ほど赤ちゃんと病棟で過ごした。その間も、王子はほぼ毎日様子を見に来てくれた。  シュカ王子が喜んでいる様子を見るたびに、僕の胸は鉛のようなものに押しつぶされそうになる。  とにかく1歳になるまではフォリーヌ王国で育てるんだ。そして、この子が1歳の誕生日を迎えたら冥界に、ジスのもとへ戻るんだ。  僕の身体が回復し、自室で過ごせるようになってからは赤ちゃんのお世話で手一杯になり、将来への心配や不安などは吹き飛んでしまった。  きなこくんに助けてもらいながら、赤ちゃんにミルクをあげたり、身体を拭いたり、おむつを変えたり。夜泣きがひどい場合には、僕ときなこくんの2人体勢で仮眠を取りながらお世話をしていた。きなこくんは、全く辛そうな様子は見せずに純粋にシュカ王子の子どもを大切にお世話してくれた。  今日は王子から話があると伝えられていたので、自室で赤ちゃんを抱きながら待っているところだった。

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