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第51話 君の名前はね
「まだ産まれてからまもないのに、もう髪の毛が生えている」
王子は開口一番そんなことを口にし、僕の腕の中で眠る赤ちゃんを覗き込んだ。
「この子の名前を色々と考えた。そして、この子の名前はーー」
王子の唇からその音を聞くまでは、僕はただ王子の世継ぎとしてしかこの子を見てあげられていなかった。けどーー。
「さくら」
「え?」
「この子の名前は桜 に決めた」
桜……この子の名前。
「赤ちゃんの名前辞典という本があってな……そこにはお前の名前のように珍しい字体の言葉がたくさん書いてあった。きなこと一緒に翻訳していくうちに、桜という木があることを知った。そして、桜は満開になったときに潔く散るという、儚い木だと書かれてある。俺の親族たちは、勇猛な獅子のような名前を付けよと言うだろうが、俺は阿月のように素直で優しい子に育って欲しいから、この子を桜と名付けることにした。いいか?」
そうか。そんな細かいところまできちんと考えてくれたんだ……。
僕は迷わず、コクリと頷く。
「うん。桜ってすごくいい名前だね」
王子が軽く微笑んでくれる。普段めったに笑わない人だけど、桜を産んでからはシュカ王子は柔らかな表情を度々浮かべるようになった。
「さてと、俺もたまにはこの部屋で寝てしまおうか」
王子、桜、僕の順で川の字でベッドに眠る。
桜は最近は夜泣きも減って、少しずつお世話にも慣れてきたところだ。
王子は愛おしそうに桜の手に触れると、その手を僕の頬に置いた。
「よく頑張ったな。阿月のおかげだ。俺はこれから遠征や他国との会合に行かなければならない。留守の間、きなこと共に桜を頼む」
「任せてください」
その晩は不思議と熟睡できた。王子とベッドを共にしたのは、いつぶりだろう。王子の陽だまりのような匂いに安心して、深い眠りについた。
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