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第74話 桜の成人式典

 翌日、シュカ王子から桜と僕に話があると執務室に呼び出された。シュカ王子は白衣のローブを身にまとい僕らの顔を見つめる。 「フォリーヌ王国では18歳は成人と見なされる。2人が戻ってきてから1ヶ月も経過してしまったが、成人の王族の一人として桜を迎えたい。よって5日後の夕刻に桜の成人式典を執り行うことにした」 「有難く」  王子の言葉に桜は起立し深々と頭を垂れる。僕は王子にこんな問いかけをした。 「そっか。桜は成人式典があるんだ。それってどんなことをするの?」  僕の問にシュカ王子は普段はツンとした猫目の目元を緩ませて答える。心底照れくさそうに、けれど嬉しそうに言う。 「俺が桜の肩に剣を置いて誓を立てる。フォリーヌ王国へ心血を注ぐことを互いに誓うんだ。それとまだ2人が戻ってきて日が経たずに知らない者もいる。そんな者たちに2人を紹介する場でもある」 「わかりました。確かに、わたしがフォリーヌ王国に来てから対面でお話したのは父上と臣下の方たち、それとメビウスの村の者に納税について聞き込みをしたくらいですね。まだわたしと母上が戻ってきたことを知らない民もいるでしょう。良い機会だと思います。そうでしょう? 母上」  冷静に分析する桜に調子を合わせるように僕もゆっくり頷く。 「そうだね。『農民への税収緩和』という新しい法律を施行したのならその改革をした桜の顔と名前を国民の皆さんに知ってもらったほうがいいね。どんな人がその改革をしたのか気になるだろうし」  シュカ王子は深く頷くと僕と桜の傍に歩み寄る。吐息があたるくらいの距離感に僕の身体は思わずぴくりと跳ねた。桜はそんな僕のことを目に入れずにただ黙ってシュカ王子を見つめていた。 「2人とも式典までゆっくり休むように。特に桜。お前はこの短期間で色々と動いてくれた。休息も必要だ。式典の日まで公務は休んでいい」 「……しかし」  断ろうとする桜の背中を王子がぽんと小突く。 「休むのも仕事のうちだ。きなこが話したがっていてな。積もる話もあるだろうから良ければ相手をしてやってくれ。中庭にいる」 「わかりました。では失礼します」  律儀に礼をする桜が執務室から出ていくと、不意に王子の唇が僕の鼻先に触れそうなくらい近づいた。 「お前も式典の日までは休むといい。俺には積もる話があるんでな。俺の相手をしてくれ」 「わ、わかった」 「……こうして2人きりで話すのは久しいな。少し馬房へ行かないか?」  凛とした瞳と目が合う。僕は菫色の瞳の中に囚われるようにこくりと頷いた。

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