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第75話 シュカ王子からデートのお誘い

「ミミリアもお前を寂しがってここ数日は食欲が落ちていたんだぞ」  馬房についてから1番端にいる雌馬のミミリアの首筋を王子がわしわしと撫でている。ミミリアはチュロッキー王国へ向かう遠征の際に馬車を引いていた白馬だ。僕はその時、少しだけおやつの人参をあげたりしてスキンシップをとっており、穏やかな性格のミミリアに癒されていたものだ。 「ごめんね。急にいなくなって驚かせちゃったね……」  僕も王子に肩を引き寄せられ、ミミリアのたてがみの生え際をよしよしと撫でた。ミミリアはじっと丸い黒い瞳で僕を見つめてから耳を少し振って馬房の奥に下がっていった。 「……さて、阿月」  んん、と咳払いをした王子に目をやるとそっと手のひらを差し出された。僕ははじめきょとんとした顔でその姿の王子を見つめていたが、すぐに気づく。これはシュカ王子なりのデートのお誘いだと。差し出していないほうの手で口元を覆っていて目線は合わせてくれない。そっぽを向いている。 「王子……」  珍しく照れている王子を目にしたら僕も照れくさくなってなかなか手を繋ぎにいけない。そんな無言の状態に埒が明かないと思った王子が僕の手をギュッと掴み馬房の外へ連れ出した。やや早歩きの王子に引っ張られるようにして外に出る。僕は早足の王子についていけず、1度立ち止まってからくいっと王子のローブの肘の辺りを掴んだ。 「王子。待って。ちょっと早いよ」 「っ。ああ、すまない」  自然と長身の王子に対して上目遣いになったことも影響したのか王子の挙動がおかしい。やたらちらちらと辺りを振り返るし、かといって僕を見つめようとしたら逃げるように視線を下げてしまう。 「どうしたの? さっきからなんかヘン」  笑いながら聞いてみれば王子はぐっと奥歯を噛み締めたように引き攣りながら強く拳を握りしめている。 「桜とお前の美しい顔が2つ並んでいると、どちらを見ればいいのかわからなくなる」 「……んん?」  王子は目を伏せて睫毛をふるふる震わせながら弁明を始めた。 「親として息子を変な目で見ているとかでは断じてないが、俺と阿月の子だぞ? そんなの美人に決まっている。2人が冥界から戻ってきて1ヶ月の間は、俺は桜と2人で法改正に明け暮れていたからそこまで気にならなかったが……。今こうして愛している2人の顔が目の前にあったら俺は、どう反応していいかに困るのだ」  自身の胸に手をあてて必死な訴えをしてくる王子に僕は思わずふっと笑い声が洩れてしまった。口元に手をあててくすくす笑っていると、王子は困り眉で僕の頬を人差し指の腹でぷに、と埋めてくる。 「なんだその笑い方は。お前俺の困った姿を見て喜んでるのか?」 「いや、違くてっ。桜も僕もシュカ王子にすごく愛されてるんだなーって思うと嬉しくて」

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