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第78話 ※

「ここ、布をぴんと張っているぞ」 「ゃあ……っ……見ないで、くださ、い」  王子はそろそろと手を動かし僕の足の間に触れた。布をぴんと押している僕のものを上からぐりぐりと指の腹で愛撫する。 「どうした? 急に敬語で懇願するなんて」  王子はくくくと喉の奥で笑うと更に僕を困惑させる。耳たぶを甘く食み、円を描くように舐め回すと耳の中へ舌を入れてきた。ぐちゅぐちゅと濡れた音が鼓膜に響いてスパークのような刺激が腰へ直下する。僕のものは下着を押し上げてびくびくと震えていた。まるで刺激を待ちわびるように、もっと触ってと懇願するように王子の手に自ら擦り付けていた。 「はは。自分からすりすりしてきたのか。欲求に忠実な黒猫だ。偉いな」 「ちっ、ちがっ……ぁ」  胸のとんがりは王子の爪の先でかりかりと弄られ、足の間はガッチリと開脚の姿勢を固定されている。王子は僕の反応を見つつちょっかいを出すのを止めない。雲ひとつない青空の下、誰に見られるかもわからない屋外でこうした行為をするのは初めてで僕は絶えず嬌声を上げまいと唇を強く噛んでいた。  すると森の木陰がざわざわと揺れる音が聞こえて目をやる。王子はそんな僕を抱き寄せたまま木陰へ声を発した。 「おい。何やつだ。我が妻との逢瀬を邪魔するのは」  木陰がさらに揺れて、ぽよんとしたお腹のたぬきが出てきた。僕らの様子を伺うようににじり寄ってくる。 「た、たぬき……?」 「ああ。そうみたいだ。何だ。誰か他の奴に見られたかったのか?」  僕の惚けた顔を見つめて王子が意地悪く笑う。ぶんぶんと勢いよく首を横に振って否定の意を示すと、たぬきはいつのまにか森の奥へと逃げてしまった。 「さぁ。また思う存分鳴けるぞ」  王子の前髪が風にさわさわと誘われて遊ぶ。僕はその額に自身のおでこをくっつけた。 「シュカ王子。僕にこれ以上は心臓に悪いよ……」 「ふん。たまにはこういう緊張感を持つのもいいスパイスになるだろ」 「スパイスって……」  えっへん、と急に子どもらしく振る舞う王子に気を抜かれてしまう。王子は時々子どもみたいに無垢な表情を浮かべる。普段の澄ました顔とは違って可愛らしくて、僕はつい目を離せなくなってしまう。 「まあいい。そろそろ軍議に向かう時間だ。ほら、阿月ちゃんと立て」 「う、うん……」  まだ身体の熱が冷めやらないうちに立たされ、ほんの少しの刺激にも敏感になる。シャツが乳首に擦れるたび、下半身の布地が足の間に擦れるたびに上擦った声が洩れそうで気が気ではない。口をぎゅっと噤み、息を押し殺す。 「じゃあ、続きは今夜。それまで一人で勝手に気持ちよくなるのは許さない。いいな」 「……わかった」  しょげる僕に王子は口付けを落とす。唇の隙間から滑り込んできたぬらぬらとする紅い舌に翻弄され息ができない。舌を離してくれた瞬間、銀の糸がつうっと互いの唇から引いた。王子の口付けは甘い密のような味がする。 「いい子にしていれば今夜は激しく抱いてやる。それまで我慢するんだぞ」 「……うん」  「激しく抱いてやる」という言葉に嬉しくなって素直に頷いてしまった。ぱあぁっと表情が明るくなるのを自覚して少し照れてしまう。そんな僕を観察するように見つめながら王子は満足げに腕を組む。 「やはり日頃の俺の躾が良いのか……」 「?」  ぶつぶつと呟く王子を横目に、僕は今夜の夜這いを許可されたことが嬉しくてたまらなかった。歓喜に胸が震えるのを感じていたずらに身体を刺激しないよう慎重に自室へと戻っていった。

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