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第79話 ※黒猫の夜這い
そっと王子の寝室のドアに近づき、鍵穴の隙間から室内を見渡す。外は真暗の闇。ひゅうひゅうと廊下を吹きすさぶ風の音だけが耳に触れる。王子の部屋は僕の部屋と隣同士とあってか馴染みのある部屋だ。たくさんの思い出のある部屋でもある。ホウホウという夜の首長である白梟の鳴き声が辺りに響く。僕はこんこんと扉を軽くノックする。ほどなくギィィという軋む音を立てて扉が開いた。
「……っ」
目の前に立つ王子は寝衣を着て、濡れた髪をタオルで拭いているところだった。いつもはふわりと膨らみを帯びてセットされている髪型が今はぺしゃんこになっていて目を見開く。まるでお風呂を浴びたばかりのハスキーのようだった。
「さあ、入れ」
王子に手を繋がれ、僕は部屋の扉の鍵を閉める。大窓の外からは涼しげな夜風が部屋へ流れ込んでいた。
なぜだろう。濡れた髪の王子はどことなく妖艶でいつまでも見ていたいと思った。
「お風呂上がり?」
と僕が聞けば「ああ」と素っ気ない返事が返ってきた。タオルでわしゃわしゃと髪の毛を拭いている王子の背中にそっと抱きついた。
「……何だ。やけに積極的だな」
王子は僕の行動に一瞬息を止めただけですぐにいつものように揶揄ってくる。
「だって王子と会えるまでずっと我慢してたから。はやく責任取って欲しくて」
「……」
僕は少しだけあざとさを含んだセリフを吐いてみた。僕がこんなセリフを言うなんてきっと王子は予想していないだろう。数秒、時が止まったように身体が固まっていた。僕ははやく王子の反応が見たくて身体に回した腕を一際ギュッと掴む。
「ねえ。はやくシて」
「……お前という奴は」
突如、身体を反転させられる。王子の腕の中に僕の身体がすっぽりとおさまる。僕の耳が王子の胸に重なる。どくどくという速い鼓動。そして熱くて硬いものが僕の腹に押し付けられた。ぐり、と熱の塊を何度もすりすりと押し付けてくる。
「今日は泣いても喚いてもやめない。覚悟しろ。阿月」
「うん」
王子が僕の頬に手をかけ口付けを捧げた。ふみゅ、という柔らかな唇が重なりそれだけで安堵する。緊張した身体の強ばりがすうーっと消えていく。僕は今夜は積極的に口付けをしたくて王子の寝衣の胸ぐらを掴み噛み付くようなキスをした。
「……ん……っ……ふ」
口の中で王子の舌が暴れる度に僕の口から艶かしい嬌声が溢れる。飲み込めなかった唾液が顎を伝い王子の寝衣を濡らす。ぽたり、と滴が垂れて小さな丸いシミができた。それが1つ、2つ、3つと歪な円を描いてできていく。王子の一呼吸さえも愛おしくて何度も王子の寝衣の袖を引く。強く握りしめたら跡になってしまうかもしれない。そう心配しても、今はただこの愛おしい時間を独り占めしていたかった。
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