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48時間

「どうするんだ、藤永。このままだと奴は監禁罪と殺人未遂だけで検察へ送検されちまうぞ」  古参の権限を振り翳し、福寿に恫喝された藤永は、彼の言葉に奥歯が欠けるくらい激しく噛み締めていた。 「身柄を検察側に引き渡す前に、絶対証拠を見つけます。そして由元を連続殺人犯として起訴してやりますよ」 「今まで見つけられなかった証拠(もん)が、二日間だけで手に入れることが出来んのか? どうやって探す」 「アトリエをもう一度捜査します。何か出てくるかもしれないし、それと奴に関わった人間を洗い直します。徹底的に!」 「ふん。四十八時間のうちに何か出てくれりゃいいけどな。ま、俺らはマンションと奴の母親、仁杉艶子を当たる。何か知ってたら儲けもんだしな。お前らはしっかりアトリエを調べろ、令状はあるんだ徹底して()探ししろ、いいな!」 「はい、すぐ向かいます!」  福寿の背中を見送っていた藤永は、話の途切れるのを待っていた伏見に気付き手招きした。 「先輩、車ですね。すぐ出します」 「ああ」  くるりと踵を返し、駐車場へ向かおうとする背中に「おい」と、藤永は声をかけた。  反応した伏見が、はたと駆け出す足を止め、輝きを放つ二つの目を向けて来た。 「どうかしました、先輩」 「いや、蔵では助かった。お前が機転を利かせて由元の気を逸らしてくれた。あれがなければ逮捕どころか、千乃の命も危なかった。本当に助かった、ありがとう」  深々と頭を下げる様子にたじろぐ伏見を上目遣いで確認し、藤永は柔らかに口角を上げると、活躍した後輩の頭をクシャりと撫でた。 「も、もう先輩。俺、褒められ慣れてないんです。そんなことされたら恥ずかしいじゃないですか。それに俺が非番の日に見た千乃君と一緒にいたヤツ。あれは由元だったんだ。俺が声でもかけてれば、千乃君もこんな酷い目に遭わずにすんだかもしれないっす……」 「タラレバは言うな。千乃は助かったんだ、お前の機転でな」 「先輩……」  涙腺を緩ませる伏見の額をこつくと、藤永は凹む背中へ気合を入れるよう刺激を与えた。 「ハハ、心配すんな。もう当分はお前を褒めることはないからさ」 「ちょ、ちょっと、痛いじゃないっすか。それにモチベーション下がっちゃいますよ。適度に軽く、たまには褒めてくださいよ」 「何だそれ」  千乃が見つかり、柊の身柄を確保した。あとは確たる証拠を手に入れるだけだ。  残された時間に何とかして証拠を突きつけてやる。  藤永は意気込みを込めるよう、力強く足を踏み締めながら駐車場へと向かった。

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