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第2話
今すぐ帰宅して、すぐに調査依頼書を出そう。そう思った矢先だ。坂道を走りカーブを曲がったところで対向車にはっとした。まずい。ぶつかる。
思い切りブレーキを踏む。ブレーキ音が甲高い悲鳴をあげた。それでも車は勢い強く、止まらない。
「く……ッ」
すぐさまハンドルを切り反対側へ飛び出した。坂道の、崖のほうへ。車はガードレールにぶち当たり、ドゥォォォンと地響きのような音がした。だが違った。揺れたのは車体だ。
激しく揺れる衝撃を受けとめ、俺の全身はフロントに突っこみそうなほど弾き飛んだ。だが阻止された。どうやらシートベルトとエアバッグは正常に機能したらしい。
しかし俺が吹っ飛ぶかわりに、ガラスや車体の破片が飛び散った。衝撃で振り回された俺の脳味噌がぐらぐらと泡を吹く。頭のてっぺんから生ぬるい体液が流れ出た。
うっすら開いたはずの視界が赤色に染まったとき、車の隅っこに、炎の影が見えた気がした。
***
おかしい。俺はどうしたんだろう。たしか同窓会の帰りだった。天候は今にも雪が降り出しそうなほど底冷えしていて、空は暗闇で、どんよりと重たい。
俺は七緒の名を聞いて……そうだ、ナナだ。ナナが死んだなどと馬鹿げたことを聞いて。周りも見えないほど急いで帰って……事故を起こした。
それにしては変だろう。血の気がなくなり、冷えるいっぽうだった身体はぽかぽかと暖かい。まるで陽気の真下にいるよう。指一本さえ動かなかったのに、今は鼻歌さえつむげそうに心地いい。
そこで俺は息をのんで目を開けた。ここは、どこだ。
交通量の多い道路ではない。真冬の冷たさが広がる冬空でもない。悲惨な状態であろう崖っぷちの、事故現場などではもちろんない。
見開く視界はクリアすぎて、曇り一点もない青空だ。春から夏にうつる緑風を感じさせる安らぎだ。どこかのベンチか。
訳がわからない。いったいどうなっている。混乱した頭を思わずぐしゃりと鷲掴んだ。ふと、視界に張った剥き出しの腕に違和感を抱いた。
なんだこれは。俺の腕はもっと成長したはずだ。それに服装も。なぜ腕が剥き出しなんだ? 半袖の白シャツなんて、これではまるで、高校生のような……。
「あっ、貴史! やっと起きた。疲れてたのー? もうすぐ昼休み終わっちゃうよ」
どこか拗ねた口調で真横から声が響く。この声は、もう二度と聞けないと覚悟した。懐かしい声音だった。俺は、信じられない思いで声の主を振り返った。
「ナナ……」
「なぁに?」
ナナ、七緒。七緒だ。芦田七緒。俺の声は震えていなかっただろうか。俺の顔は、目は。ちゃんと七緒を見れていたか。ナナが男前と言ってくれた、鼻の奥がつんと痛んだ。
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