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(――どうして、こんなことに)  数時間後。俺はルーと共に馬車に揺られていた。  馬車がカタカタと音を立てて軽く揺れる。居心地悪そうに身を縮めていると、ルーが俺の顔を覗き込んでくる。  心臓に悪い。 「な、なぁ、ルー。本当に行くのか?」  何度も何度も確認したことを、また問いかけた。ルーは特になにも言わずにうなずいた。 「当たり前だろ。それに、ユーグのことを放っておけない」  ルーの手が俺の頬に触れた。触れられた箇所が熱いと感じてしまうのは、俺が変になったからなのか。 (しかも、デヴィットさんが変な気を回したみたいだし……)  少し前。騎士団の本部に寄った。その際に出迎えてくれたのはデヴィットさんで。  彼は俺の姿を見て、笑いながら「後は任せて」と言ったのだ。  結局、俺とルーはデヴィットさんに甘えることにして、一緒にルーの屋敷に向かっているというわけ。 「デヴィットさんに、迷惑だったんじゃ」  沈黙が気まずく、言葉を探して声をかけた。俺の言葉に対し、ルーは「迷惑なわけあるか」と返してきた。 「アイツはああ見えてとても優秀だ。それに、王立騎士団所属の騎士は精鋭部隊。俺一人がしばらく抜けても、混乱するような組織じゃない」  まぁ、それはそうなんだろう。  ルーの言葉に納得することしかできなくて、黙ることしかできなかった。  が、馬車から見える外の景色に意識を奪われた。 「――きれい」  自然と言葉がこぼれていた。  外は王都の喧騒を感じさせないほどに、ゆったりとした雰囲気だった。揺らめく木々は青々としていて、まるで別世界に来たみたいだ。 「あのさ、ルー」 「うん、どうした?」 「ルーはここら辺に住んでるのか?」  問いかけてみた。だって、そうじゃないか。ここら辺は王都の僻地のような場所だ。通勤とかに不便じゃないんだろうか? 「まあ、そうだな。それに普段は騎士団の本部に泊まり込みだし」 「へぇ」 「個人の屋敷には帰っても週に一度だ」  それは、屋敷を構えた意味があるのだろうか?  俺のその考えはルーにはお見通しだったらしい。ルーは笑っていた。 「いつかユーグと住もうと思って、買ったんだ」 「――は?」  俺はすぐにルーの言葉が理解できなかった。口をぽかんと開けた俺の間抜けな表情に対し、ルーは微笑んだ。  からかわれた――わけでは、なさそうだ。 「正直、俺はずっとユーグとの結婚を考えていたんだ」 「……うそ」 「うそじゃない。正体だって、いつかは明かさないとと思っていた。……まぁ、あんな形になったのは不本意だったんだけどな」  気まずそうに視線を逸らすルー。耳まで赤い姿に、心臓がきゅうっと締め付けられるような感覚だった。  ルーは不誠実なんかじゃなかった。不誠実なのは、俺だけだった。申し訳なさが募っていく。 「あと、これは提案なんだけど――」 「ルー?」 「俺と一緒に住まない……か?」  口元を押さえたルーが口にした言葉を、やっぱりすぐには理解できなかった。  たっぷり数十秒を要して、俺はルーの言葉を理解した。瞬間、顔に熱が溜まるような感覚に襲われた。 「え、えぇっと……」 「展開が早いのは理解してる。だけど、このままユーグを一人にするのは嫌なんだ」  手が伸びて来た。その手は俺の手をつかみ、ぎゅっとつかむ。流れるように絡められた指。  心臓がまた早足になっていく。こんなにも早い鼓動ははじめてだった。 「それに、ユーグの兄を捕らえたところで、今後なにが起こるかわからないだろ?」  真実だ。長兄の言葉によると、裏には誰かいるみたいだし。 (ルーに迷惑をかけないためには、一緒に住んだほうがいい……のか?)  頭の中にそんな気持ちが浮かぶけど、さすがにすぐには答えを出せそうにない。 「ユーグがいるなら、俺は毎日きちんと帰る。絶対、ユーグを一人にはしない」

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