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 俺のことをルーがまっすぐに見つめる。  目をじっと見つめていて、俺は悟った。ルーは本気なのだと。 「正直さ、俺はルーと一緒に住むの気が乗らないっていうか」  だって、慣れ親しんだ環境を離れるということなのだ。それにルーは本当に人気が高い。もしかしたら、どこかで関係がバレてしまう可能性だってある。  想像するだけで、一歩が踏み出せない。しり込みしてしまう。 「だって、そうじゃん。俺ら今日から恋人同士になったんだよ? いきなり同棲って」  ルーと俺は長い付き合いだ。だから、いきなりっていうのも少し語弊があるのかもしれない。  けど、そう思うのも仕方がないとわかってほしい。 「……そう、思う気持ちもあるんだ」  なのにどうしてなんだろうか。ルーと住むのも、悪くないなっていう気持ちも確かにある。 「俺、バイト続けてもいい?」 「あぁ、毎日送り迎えする」 「ちゃんと毎日、帰ってきてくれる?」 「当たり前だ」 「――いつか、俺のことをルーのご両親に紹介してくれる?」  最後の言葉は震えていた。ルーは侯爵家の人間だから、男と結婚するよりも女と結婚したほうがいい。ルーの両親だって、絶対に思っているはずだ。それは簡単に想像できる。  ルーの返答が怖くて、俺はぎゅっと目をつむっていた。  対するルーは声を上げて笑った。とてもおかしそうに。 「当たり前だろ。……両親にも兄たちにも、ユーグのこと隠すつもりはない」  当然のように言われると、胸に嬉しいという感情がこみあげてくる。  俺のいろんな不安はきっとルーが全部取り払ってくれる。  だったら、ルーを拒絶する意味もない。 「引っ越し作業、手伝って」  今にも消え入りそうな声で伝えた。すると、ルーがきょとんとする。  が、遠回しな言葉の意味を理解してくれたらしく、男らしい精悍な顔に嬉しそうなはにかみを浮かべた。 「あぁ、もちろんだ」  ルーの声は本当に嬉しそうだった。そして、俺の身体を自身のほうへ引き寄せる。腰に回された腕が懐かしい。 「――ユーグ」  俺のことをルーが見つめている。  あの頃とは全然違う髪型で、全然違う服なのに。この男がルーなんだって嫌というほどにわかってしまう。  それはきっと、俺を見つめる目がとても優しいから。あと、その目の奥に――情欲を宿しているから。 「ユーグ、なぁ、寝室は一緒にしような」  決定事項のように宣言され、俺は困った。誤魔化すように視線をさまよわせると、ルーが俺の唇に噛みつくようなキスをする。 (なんだろ、なんか、新鮮……)  今までキスなんて何度もしてきたのに。このキスは違う。  甘くてとろけてしまいそうで、身体の芯から幸福が沸きあがってくる。  ルーの舌が俺の唇を舐めた。唇を開くと、口内にルーの舌が挿ってくる。  俺の口内を存分に舐めまわしたかと思うと、ルーが唇を離す。目に宿った情欲は先ほどよりもずっと強い。 「――本当、可愛すぎる」  耳に届くか届かないかの声。でも、言葉に孕んだ情欲が俺の身体に熱を与える。  本当ルーには敵わない。 「ルーも……その、世界一カッコいいから」  照れてしまってはっきりとは言えない。けど、ルーには十分伝わったらしい。嬉しそうに口元を緩める。 「どんなやつに言われても嬉しくなかった。なのに、ユーグに言われるとすごい嬉しい」 「……口が上手いな」 「俺、本気だ」  軽口をたたき合って、どちらともなく唇を合わせた。  結局、馬車が屋敷にたどり着くまで俺とルーは延々と口づけていた。  そのせいで、屋敷についた頃には俺はへとへとだった。

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