30 / 54
3-10
俺のことをルーがまっすぐに見つめる。
目をじっと見つめていて、俺は悟った。ルーは本気なのだと。
「正直さ、俺はルーと一緒に住むの気が乗らないっていうか」
だって、慣れ親しんだ環境を離れるということなのだ。それにルーは本当に人気が高い。もしかしたら、どこかで関係がバレてしまう可能性だってある。
想像するだけで、一歩が踏み出せない。しり込みしてしまう。
「だって、そうじゃん。俺ら今日から恋人同士になったんだよ? いきなり同棲って」
ルーと俺は長い付き合いだ。だから、いきなりっていうのも少し語弊があるのかもしれない。
けど、そう思うのも仕方がないとわかってほしい。
「……そう、思う気持ちもあるんだ」
なのにどうしてなんだろうか。ルーと住むのも、悪くないなっていう気持ちも確かにある。
「俺、バイト続けてもいい?」
「あぁ、毎日送り迎えする」
「ちゃんと毎日、帰ってきてくれる?」
「当たり前だ」
「――いつか、俺のことをルーのご両親に紹介してくれる?」
最後の言葉は震えていた。ルーは侯爵家の人間だから、男と結婚するよりも女と結婚したほうがいい。ルーの両親だって、絶対に思っているはずだ。それは簡単に想像できる。
ルーの返答が怖くて、俺はぎゅっと目をつむっていた。
対するルーは声を上げて笑った。とてもおかしそうに。
「当たり前だろ。……両親にも兄たちにも、ユーグのこと隠すつもりはない」
当然のように言われると、胸に嬉しいという感情がこみあげてくる。
俺のいろんな不安はきっとルーが全部取り払ってくれる。
だったら、ルーを拒絶する意味もない。
「引っ越し作業、手伝って」
今にも消え入りそうな声で伝えた。すると、ルーがきょとんとする。
が、遠回しな言葉の意味を理解してくれたらしく、男らしい精悍な顔に嬉しそうなはにかみを浮かべた。
「あぁ、もちろんだ」
ルーの声は本当に嬉しそうだった。そして、俺の身体を自身のほうへ引き寄せる。腰に回された腕が懐かしい。
「――ユーグ」
俺のことをルーが見つめている。
あの頃とは全然違う髪型で、全然違う服なのに。この男がルーなんだって嫌というほどにわかってしまう。
それはきっと、俺を見つめる目がとても優しいから。あと、その目の奥に――情欲を宿しているから。
「ユーグ、なぁ、寝室は一緒にしような」
決定事項のように宣言され、俺は困った。誤魔化すように視線をさまよわせると、ルーが俺の唇に噛みつくようなキスをする。
(なんだろ、なんか、新鮮……)
今までキスなんて何度もしてきたのに。このキスは違う。
甘くてとろけてしまいそうで、身体の芯から幸福が沸きあがってくる。
ルーの舌が俺の唇を舐めた。唇を開くと、口内にルーの舌が挿ってくる。
俺の口内を存分に舐めまわしたかと思うと、ルーが唇を離す。目に宿った情欲は先ほどよりもずっと強い。
「――本当、可愛すぎる」
耳に届くか届かないかの声。でも、言葉に孕んだ情欲が俺の身体に熱を与える。
本当ルーには敵わない。
「ルーも……その、世界一カッコいいから」
照れてしまってはっきりとは言えない。けど、ルーには十分伝わったらしい。嬉しそうに口元を緩める。
「どんなやつに言われても嬉しくなかった。なのに、ユーグに言われるとすごい嬉しい」
「……口が上手いな」
「俺、本気だ」
軽口をたたき合って、どちらともなく唇を合わせた。
結局、馬車が屋敷にたどり着くまで俺とルーは延々と口づけていた。
そのせいで、屋敷についた頃には俺はへとへとだった。
ともだちにシェアしよう!

