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4-1
あの後、二人で食事をしてまた抱き合った。深夜どころか明け方まで抱き合って、ようやく眠りについて。
もっと眠っていたいという欲望を抑え込んで、目を開ける。カーテンの隙間から差し込む日差しは温かくて、まぶしい。
一気に意識が覚醒して、起き上がった。
視界に入ったのは見知らぬ部屋。俺の住んでいるちっぽけなアパートとは全然違う内装に、別世界に来たような錯覚に陥る。
けど、眠りに落ちる前の記憶を引っ張り出して、混乱することは避けることができた。
(――俺、これからルーと一緒に住むんだ)
昨夜の生々しい行為を思い出し、頬に熱が溜まった。
身体全体が火照るような感覚に襲われつつも、ぶんぶんと首を横に振る。
なにを朝から盛っているんだ。慎め、俺。
自分自身に言い聞かせ、寝台から下りる。
「っていうか、ルーは?」
辺りをきょろきょろと見渡すものの、この寝室にルーはいない。
眠りに落ちるまでは側にいたので、俺よりも早くに起きたのだろう。うん、そうに決まっている。
「そういや、着替えとか持ってきてないや」
思い出してどうしようかと考える。
どうやら俺の身体は清められているらしく、身に纏っているのも見るからに新品の寝間着だ。
ルーが着替えさせてくれたのかと思うと、今更ながらに照れくさい――と、そんなことを考えている場合じゃない。
寝台に腰掛けて、辺りを観察した。
大の男二人が寝そべっても問題のない、巨大な寝台。棚にはところ狭しと本が詰まっていて、テーブルとソファーも置いてある。あとは書き物用の机と椅子。普通の屋敷の寝室と変わったところはない。あえていうのならば、この部屋にある家具がすべて高級品っぽいことくらいだろうか。
「やっぱり、ルーはすごい人なんだなぁ」
言葉をぽつりと零したとき、寝室の扉がノックされた。
慌てて「はい」と返事をすると、扉が開いて一人の男性が顔を覗かせる。
「おや、起きていらっしゃいましたか」
男性は鋭い目を細め、寝室に足を踏み入れた。この人、確か昨日俺とルーを出迎えてくれた人だ。
「セザール坊ちゃんには起こすなと言われていたのですが」
「あ、いえ。俺が勝手に起きただけですので……」
戸惑いがちに言うと、男性は「そうでございますか」と言って目元を緩めた。
「ごあいさつが遅れて申し訳ございません。私はアベラールと申します。このお屋敷の執事を務めさせていただいております」
深々と頭を下げたアベラールさんに対し、俺も慌てて頭を下げた。
「え、えっと、ユーグと言います……」
若干上ずった声で自己紹介をする。なんだか、いたたまれなかった。
(って、主人の恋人が同性って知って、どう思われているんだろうか)
偏見はないと言っても、ルーは高位貴族。同性婚は推奨されない立場だ。
思い出して恐る恐る顔を上げると、アベラールさんはきょとんとしていた。
「なにか、ご不安なことでもございますか?」
どう、伝えようか。
一瞬悩んだものの、素直に口を開くことを決める。
「いや、その。ルーの、主の恋人が……俺でがっかりされたのではと」
口をもごもごと動かしつつ、気持ちを伝えた。
アベラールさんは「あぁ」と気が付いたように手をポンっとたたく。
「いえいえ、特にがっかりはしませんよ。若干、驚きこそしましたが」
「ですよね……」
やっぱり、同性が恋人だというのは驚かれるのか。
まぁ、俺らってセフレからだから、バレたら余計に驚かれてしまうだろうけど。
「まさか、セザール坊ちゃんがこんな純粋な子に惚れていたとは。意外過ぎて……」
でも、アベラールさんの言葉は俺からすると、意外過ぎる言葉だった。
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