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「お手紙は不規則に届きました。あるときは数週間後に、またあるときは数ヶ月来ないときもありました。それでも、ご両親はとても喜ばれていまして……」
アベラールさんの話を聞くに、ルーは本当に愛されているんだ。
元から彼は愛されて育ったんだろうなって思うことはあった。あの自己肯定感の高さとか、傲慢さ。それはすべて、愛されてきたからこそ培えたものだろうから。
俺とは全然違う。
「お屋敷の管理をするために数名の使用人を寄越してほしいともおっしゃいました。今までのセザール坊ちゃんからは、考えられないことです」
目元を拭うアベラールさんの声は潤んでいる。相当嬉しかったんだって、すごくよく伝わってくる。
「あのお方はあんな風ですが、とても責任感が強いです。そして、誰かに頼ることがすごく苦手なのです。ですからどうぞ、ユーグさまがセザール坊ちゃんをお支えしてくださいませ」
深々と頭を下げたアベラールさんに対し、俺はうろたえる。
こんな風に期待してもらえるような立派な人間じゃないんだ、俺は。
(本当の俺は劣等感の塊で、ルーの側にいられるような人間じゃない)
けど、ルーの側にいたいという気持ちは誰にも負けないつもりだ。
「俺でよかったら、ずっとルーと一緒にいたいです」
今相応しくなくても、未来の俺が相応しくないとは限らない。
頑張って努力したら、ルーの足元くらいには及べるかもしれない。
「ルーみたいなすごい人を、俺ごときが支えられるなんて思い上がりはしません。でも、少しでも力になれたらいいなって……」
紛れもない本心だ。決意表明のようにアベラールさんに宣言すると、彼がまた目元を拭う。
「えぇ、どうぞよろしくお願いいたします。あぁ、それと。今後はユーグさまにこのお屋敷の統括をしていただきたく思いますので」
「……え、えぇっ!?」
でも、さすがにそれは突然すぎないだろうか?
「いずれはセザール坊ちゃんの奥方さまとなられるのですから、当然でございます。この後、使用人を集めて紹介しますので」
「は、はぁ……」
俺に使用人の統括なんてできるのか? 務まるのか?
(いや、俺はルーの足元くらいには及びたい。ルーの力になりたいんだ)
だったら、頑張らなくちゃ。
「が、頑張ります……!」
力強くうなずくと、アベラールさんがきりっとした表情になる。先ほどまでの泣きそうな表情は見る影もない。
それからアベラールさんにこの付近のことを教えてもらっていると、ルーが戻って来た。
彼の髪の毛はセットされていて、衣服は黒色の騎士服だ。……恐ろしいほどに、似合っている。
「アベラール、俺の分の茶を用意してくれ」
「かしこまりました」
ルーはアベラールさんに指示を出すと、俺のすぐ隣の椅子に腰を下ろした。
「なにか変なことは吹き込まれていないだろうな?」
眉間にしわを寄せたルーの顔は、なんだか怒っているみたいだ。
……そりゃあ、自分がいない間に自分の話をされるのはいい気分じゃない。
「別に変なことは話してないよ。ルーとご両親の関係とか教えてもらっただけだ」
「……十分変なことだろう」
脚を組んだルーが、ちらりと俺に視線を向ける。それって変なことなんだろうか?
「両親の話は、いずれ俺の口からする。二人の兄のことも同様だ」
「うん」
「正直、話したくない気持ちのほうが強い。でも、話さないとダメだってわかってるよ」
ルーの言葉からは、俺ときちんと向き合おうという気持ちが伝わってくる。
嬉しくて頬を緩めた。だらしない顔をしているかもしれない。
「っと、間抜け面になってるぞ」
俺の頬を長い指がぷにっと押す。俺は笑うしかできない。
「なにがそんな面白いんだか」
もう片方の手で頬杖をついて、ルーが不貞腐れたような声を出す。
面白い? そんなわけない。
「違う、嬉しいんだよ」
「は?」
「人って面白いとき以外にも笑うからさ」
ルーってたまに天然というか、想像力が足りない部分がある。
「ルーが俺にきちんと向き合ってくれているってわかって、嬉しいんだ」
俺たちは三年も一緒にいたのに、まだまだ互いに知らないことばかりだ。
こんなにも気持ちが互いを求めていたのに、知らないままを貫こうとしていた。
「なぁ、俺にルーのこといっぱい教えてよ。俺が知らないルーをもっと知りたい」
いや、ルーだけじゃない。セザール・ルメルシェという男のことも、騎士団長セザールのことも。
俺はいっぱいいっぱい、知りたい。ルーとずっと一緒にいるために。
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