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敷地に入ると、ルーは真っ先にサリムを馬丁に託した。
ルーがサリムの毛を優しくなでて、最後に「また明日な」という。サリムは反応するように鳴いた。
「このあとはどうするんだ?」
「……そうだな。夕食まではゆっくりするかな」
大きく伸びをしたルーの言葉に、俺もそうしようと思う。
迷惑じゃなかったら、隣にいたいな。
「俺も一緒にいていい?」
顔を覗き込んで問いかけると、ルーの目がぱちぱちと瞬きを繰り返す。
ダメだったか。まぁ、そうだよな。ルーだって一人でゆっくりしたいよな。
「変なこと言ってごめん。迷惑だろうし、やめる」
苦笑を浮かべて首を横に振る。俺の態度を見たルーが、ガシガシと頭を掻いた。
「迷惑とか、そういうことじゃない。いきなりで驚いただけだよ」
「……迷惑じゃないのか?」
「俺がユーグのことを迷惑だなんて思うことは一生ない」
ルーの大きな手のひらが、俺の肩を抱く。
ここは敷地とはいっても、まだ外だ。だから、恥ずかしいはずなのに――。
(けど、こうしていたい)
その肩にもたれかかる。ルーの手のひらが俺の肩を撫でた。
「――ルー」
わずかに熱を持った声でルーを呼んだ。俺に向いた眼差しに、情欲がこもる。
どちらともなく顔を近づけようとして――人の気配を感じた。そちらに視線を向けると、そこには見知った顔の人物がいた。
「――デヴィット」
ルーが名前を呼ぶ。
そこにいた人物――デヴィットさんは、にこりと笑った。
「いやー、お二人さんは仲がとてもよろしいようで」
どうして、なんで。デヴィットさんがここにいるんだろうか――と考える。
でも、俺が答えにたどり着くよりも先に、デヴィットさんはあっさりと答えを告げた。
「ちょっと急用があってきたんだけど……。へぇ、お二人さんはそういう関係で」
いかにもにやにやした笑みを浮かべたデヴィットさん。反応が怖くて恐る恐るルーの顔を見上げると、表情が消えていた。
「団長もきちんとそういう相手がいたんですね、一安心ですよ」
ルーが大股でデヴィットさんのほうに近づく。そして、その肩をがっちりとつかむ。若干痛いのか、デヴィットさんの表情がゆがんだ。
「お前は一体どういう立場からものを言っている。あと、これが肝心だ。ユーグに手を出したら、お前の命はないと思え」
明らかな脅しだった。
俺に対しての言葉じゃないのに、俺は怯えてしまう。騎士団長の本気の殺気は、到底俺に耐えられるようなものじゃなかった。
「わーかってますよ。俺だって命を簡単に手放すつもりはないんでね」
対するデヴィットさんは慣れているのか、へらへらと笑っていた。しかし、肩は痛いみたいだ。
「だったらいいが。……万が一手を出したら」
「す、ストップ! ルー、デヴィットさんを離して……!」
さすがにこのままだと彼が可哀そうだった。
俺がルーの腕にしがみつくと、ルーの瞳が俺に向いた。
不安そうに目が揺れたから、俺はルーを安心させるようににこりと笑った。
「デヴィットさん、肩が痛そうだったから。……それだけ」
「……そうか」
ルーの力がほんのわずかに弱まった。あと、少し。
「俺はルーが好きだよ。だから、ルーと恋人になったのにほかのやつになびかない」
瞳をじっと見て宣言する。ルーの双眸が大きく見開いて――ふわりと笑った。
「それもそうか」
ようやく解放されたデヴィットさんは、大きく息を吐いていた。
「――というわけだ。別に口外することは構わないが、誰であろうとユーグに手を出すことは許さないと覚えておけ」
「はいはーい」
この状況でも軽い態度を貫けるのは、いっそデヴィットさんの長所なのかもしれない。
なんてことを思いつつ、俺は二人を観察していた。
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