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「――と。急用とはどういうことだ」  ルーは表情を引き締め、デヴィットさんに視線を送る。  自身に向けられた視線を感じてか、デヴィットさんの表情も引き締まった。 「仕事のことです。ただ、現状内密にしたほうがいいかと」 「わかった。では、屋敷の中で聞く。悪い、ユーグ。しばらく待っていてくれるか?」  前半のきりりとした声とは裏腹に、後半は不安をたっぷりと含んだ声音だった。  不安がひしひしと伝わってくるから、俺はルーの心配を和らげるために笑う。 「仕事だから仕方ないよ。私室で休んでるから、終わったら呼んで」 「あぁ」  本心ではちょっとがっかりしている。せっかくルーと一緒にゆっくりできそうだったのに――と。 (けど、ルーは忙しいんだ。俺はルーの邪魔になっちゃだめだし)  自身の頬を軽くたたいて、気を引き締める。  三人で他愛もない話をして、屋敷に入る。ルーとデヴィットさんは執務室で話をするらしい。ルーの仕事フロアへと向かった。  対して、俺はプライベートフロアへと向かう。私室として与えられた部屋に入り、一息ついた。 (仕事の話、か)  ソファーに横になる。  天井からつるされたシャンデリアをぼうっと見ながら、俺は自分に不満を抱いていた。 「……俺は騎士の仕事については、無知だよな」  俺自身が騎士になれるとか、なりたいとか。そういうことじゃない。  ただ、ルーは騎士団長だ。同居する身としては、最低限仕事を理解すること。そして、裏方からサポートする必要があるんじゃないか――なんて、思うんだ。 「ルーだって、パートナーにするなら自分の仕事に理解があるやつがいいよな」  まだ結婚とかは想像できないけど。もし、万が一。結婚するとなると、俺はルーのことを公私ともにサポートしたい。  ……そうじゃないと、俺に価値なんてない気がするから。 (愛されるのは心地いい。でも、愛情をもらってばかりはいやだ)  せめてほんの僅かでも、役に立って恩返しがしたい。愛情も同じくらい返したい。  今の生活に甘えて、ぬるま湯に浸り続けるのは絶対にいやだった。 (アベラールさんに聞いたら、なにかわかるかな)  ずっとルーを見続けたアベラールさん。彼に教えを乞うたら、間違いはないはず。  善は急げと、俺はソファーから起き上がる。今から、アベラールさんを捜そう――と思っていた。  しかし、よくよく考えてみると。基本的にアベラールさんがいるのは、ルーの仕事フロアだという。  ……デヴィットさんと内密の話をしているのに、俺が近づいていいものなのか。 (俺は軽々しく口にしたりしない。かといって、デヴィットさんが信じてくれるかは、わからない)  彼にとって、俺はまだ知り合ったばかりの人間。逆も同じ。  信じてほしいけど、無理強いすることはできない。  だったら、彼らの話が終わるまで待ったほうがいいかも……。 「俺も、いつかルーの役に立てる日が来るかな」  ちょっとでも、わずかでも。俺はルーのことを支えたいんだ。 「ううん、不安になったらだめだよな。絶対に役に立つんだって、気を強く持たなくちゃ」  口にして、さらに決意を固くして。  とりあえずと、俺は着替えることにした。  外出用の衣服から、部屋着というかラフな格好に。一応姿見で変なところがないかのチェックもする。  女々しいのはわかってる。でも――好きな人に少しでも良く見てほしいのは、老若男女一緒だと思う。  俺の行動はおかしくないはずだ。

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