59 / 61

5-6

「……俺、ルーのこと信じていいんだよな」  その目をじっと見て、確認する。  この『信じる』には、たくさんの意味がこもっている。  浮気をしていないことはもちろん、俺のこと――好きでいてくれるよなって。 「当たり前だ。……全部終わったら、きちんと話すから」 「うん、待ってる」  今、俺ができる返事はこれだけだ。  そして、俺ができることはただ信じて待つことだけだ。 (話す前も同じ気持ちだったけど、今は不思議と気持ちが軽い)  きっと、俺が自分の思いをルーにぶつけることができたからだ。  俺はルーを信じたい、信じるんだ。 「いつかは、ユーグに隠し事なく接するから」 「守秘義務はきちんと守ってくれよ」 「わかってるって」  軽口をたたき合って、どちらともなく笑い合った。  俺たちの間を流れる空気は、いつの間にか穏やかなものに変わっていた。そして、その空気も徐々に変わりつつある。  甘い空気が俺たちの間を流れる。こらえるようにぐっと息を呑む。  だって、ルーは忙しいんだし。俺のわがままに付き合ってもらうわけにはいかないし。  俺の葛藤をよそに、ルーが俺の頬に手のひらを当てる。頬を撫でる手のひらの感覚に背筋が震えて、自然と身を引いた。 「ユーグ」  ルーの甘い声は苦手だ。つい、流されてしまいそうになる。  このまま身をゆだねたいけど、今はルーに休んでほしい。とにかく、断らなくちゃ。 「その、さ。ルーだって疲れてるだろうし、とにかくゆっくり休んで」 「むり」  あっさりと切り捨てられた。  甘えるような仕草とは裏腹に、目に宿っているのは強い欲望。その視線に射抜かれるだけで、身体がじんわりと熱を帯びていく。  ――抗えない。抗えるはずもない。  息を呑んで、震える唇を開いた。 「少し、だけなら――」  俺が最後まで言うより先に、ルーは立ち上がり唇を重ねてきた。  はじめは優しいキスだったのに、どんどん深くなる。苦しいはずが気持ちいい。頭はぼうっとするのに、身体は火照っていく。  気持ちいい、気持ちいい。もっと、してほしい――。  少しご無沙汰だっただけで、俺は飢えてしまったらしい。気づくとルーの首に自ら縋りつくように腕を回していた。  わずかな隙間も埋めるように、互いを貪り合った。  一体どれくらいの間そうしていたのかはわからない。互いに息が上がり始めて、俺たちはようやく離れた。  ルーの瞳に映っているのは俺だけだ――と実感すると、抱えきれないほどの幸福感で胸がいっぱいになる。  ――あぁ、好きだな。  すとんと胸の中に侵入した想いに、もう目を逸らせないかもしれない。 (意地にならずに、ルーの気持ちに素直に応えよう)  同性だとか、釣り合っていないとか。問題は山積みだけど、それらは追々解決していけばいい。 (今の一件が落ち着いたら、絶対「好き」って伝えるから)  だからどうか、今だけは。自分の気持ちを胸に秘めたまま、ルーに身をゆだねたい。  贅沢かもしれないけど、いろんなルーが見たいから。恋人じゃないあいまいな関係を最後に味わいたいんだ。 「今日、ユーグの部屋で寝ていいか?」 「ん」  短い返事に満足したらしく、ルーがちゅっと触れるだけのキスを落とす。  当然のように俺を横抱きにして、食堂を出ていこうとする。……あ、でも。 「まだ夕食途中だろ」  料理はまだ半分ほど残っている。  普段ルーはすごく食べるので、食事量が足りていないのは明らかだ。 「アベラールが後片付けしてくれるって言ってたし、無駄にはならないだろ」 「そういうことじゃないって」  そりゃあ、料理がどうなるかも心配だけど、一番はルーの食事量が足りているのかっていう話であって……。 「明日早めに起きて食べるから大丈夫だ。一回食事量を減らしたって死にはしない」 「……だけど」 「あんまりそういうこと言うなって。せっかくそういう空気なのにさ」  見上げると、ルーは眉尻を下げていた。その表情がなんだか面白くて、ついぷっと吹きだしてしまう。 「あぁ、うん。まぁ、ルーがいいならいいけどさ」 「そうそう。それに、どうせそんなこと気にならなくなるだろうしな」  つまり、ルーが言いたいのは……。 (考える余裕なんて与えないってか)  それはいつも通りといえばいつも通りだけど、なんだか胸が甘い締め付けを感じたのは、ルーには伝えずにおこう。心に誓った。からかわれたくないし。

ともだちにシェアしよう!