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翌朝。目覚めるとルーはすでにいなかった。でも、心は昨日よりもずっと軽い。
(俺にできることは、ひたすら信じてルーを待つだけ)
やっぱりいろいろと不安だし、悩むことだってたくさんある。
だけど、俺は俺にできることをして待つだけだ。……力になる方法は、仕事関係だけじゃないし。
「ユーグさま。昨日よりもずいぶんと顔色がようございますね」
朝食の席。アベラールさんが俺の顔を見てほっとしたように息を吐いた。その姿に、本当に心配をかけてしまったのだと反省する。俺が謝罪の言葉を口にすると、アベラールさんは緩く首を横に振った。
「いえいえ、お元気になられたのならよろしいのですよ」
「……ありがとう」
軽く言葉を交わしていると、従者が食事を運んでくる。
パンとスープ、サラダ。それからオムレツとカットフルーツの盛り合わせだ。
「今日から少し帰りが遅くなるかもしれないです」
オムレツをナイフで切ったとき、この間ナイムさんから言われたことを思い出した。
「お仕事で?」
「はい。もうすぐ夜会シーズンなので、その準備が」
花屋と夜会なんて、普通は結びつかないだろう。けど、実は結構関係がある。
夜会の会場を彩る花は、その家の庭園や温室に咲いているものを使用するのが一般的だ。だけど、どうしても足りないことがある。特に庭園が狭かったり、温室を有するお金がない貴族の場合は、花の種類が乏しいことや純粋に数が足りないということが起きる。その場合、市井の花屋に依頼を持ち込むのだ。
(今までは受けてなかったけど、今シーズンはどうしても――って頼み込まれたらしいし)
相手は古い知り合いだったらしく、ナイムさんも断り切れなかったそうだ。
(ルーの実家だと、自邸の花だけで十分なんだろうな)
ルメルシェ侯爵家は名門中の名門。庭園も広く、温室も複数所有しているはず。そもそも令息個人がこんな邸を持っているのだ。ルーがけた外れのお金持ちであることは、簡単に想像できる。
(……本当、俺にはもったいない人だ)
あぁ、ダメだダメだ。また気持ちが沈んでいく。
俺は気合を入れるために自分の頬をパンっとたたく。暗い顔をしていたら、ルーにもアベラールさんたちにも、ナイムさんにも心配をかけてしまう。いつもの表情を心がけなくちゃ。
「さようでございますか。もうそんな時期なのですね」
アベラールさんが懐かしむように遠いところを見た。
「セザール坊ちゃんが社交から逃げて一体何年になるのでしょうか……」
「そんなに長い間顔を出していないのですか?」
社交は貴族の義務に等しい。不参加が続くことは好ましくない。
そりゃあまぁ、ルーは忙しいから仕方がないといえば、仕方がないのかもしれないけど……。
「そうですね。社交の場に参加していたときのほうが短いほどです。それも顔を出したら終わりというもので。お兄さま方がいらっしゃるので自分はいいだろう――という言い分でした」
ルーも三男だったっけ。跡継ぎの長男、スペア兼補佐の次男に比べ、三男とは気楽な立場――と言われることは多い。実際は今後の身の振り方とかいろいろと考えなくちゃで、楽とは無縁なのに。
「アベラールさんから見てルーのお兄さんはどんな方なのですか?」
これは完全な興味だった。あのルーのお兄さんなわけだし、相当優秀なのだろう。年は結構離れていると聞いた。
「そうですね。一番上のお坊ちゃんは社交に長けた方です。分け隔てなく接するので、だれからも慕われています。少々頭があれなところはございますが、好かれる人柄ゆえに周りが助けてくださいます」
人に好かれるのも一種の才能だ。もしかしたらルーのそういう人たらしな部分は上のお兄さんに似たのかもしれない。
「真ん中のお坊ちゃんはとても頭のよい方です。お兄さまの足りない部分を補っております。愛想がよくないところが欠点ですが、決して冷たいわけではないのですよ」
たぶん、不器用な人なんだ。ぶっきらぼうなら、それはそれでルーと似ているのかもしれない。
「……あのお二人も、セザール坊ちゃんを心配なさっているでしょうね。なんせ、セザール坊ちゃんが大好きですから」
「いいお兄さん、なんでしょうね」
「セザール坊ちゃんからすると、とても鬱陶しいらしいですが」
「想像できます」
ルーは素直じゃないところがあるからなぁ――なんて、心の中で思った。
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