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1-8【※】

(口づけは、本当に好きな奴とするべきだ……)  もちろん、ファーストキスとか。そういう特別なもの以外も、だ。  でも、それよりも。亜玲に口づけられたことが、本当に嫌だった。  こんな最低で、悪魔みたいな奴に……。 「祈って、本当に純粋……ピュアって奴だね」  ニコニコと笑った亜玲が、そう言う。  ……バカにしたような声音だった。その所為で、俺は起き上がろうとする。が、亜玲にあっさりと床に押さえつけられてしまった。  体格のいい亜玲に、俺は敵わなかった。 「まぁ、そういうところ、本当に可愛いよ」  亜玲のその言葉に、俺は目の奥を揺らしてしまう。  ……可愛い? なにを言っているんだろうか、こいつは……。  けど、そう思えたのは本当に一瞬だった。亜玲の手が、俺の衣服にかけられたからだ。 (……なに、してるんだ)  動揺して、口から拒絶の言葉さえも出なかった。  それをどう受け取ったのか、亜玲は俺のシャツをまくり上げる。  胸元まで露わになった俺の身体を、亜玲が見下ろす。それは欲を含んだもののようであり、俺の身体がゾクゾクとする。 (にげ、なくちゃ……)  頭がそれしか考えられなくなる。  なのに、俺の上に跨る亜玲を押しのけることさえ、出来ない。 「きれいだよねぇ、祈って。……なんだか、女の子みたい」 「……は?」  確かに俺はオメガだから、普通の男よりは可愛らしいかもしれない。  でも、さすがに女の子みたいなわけがないだろ……!  そう思う俺を無視して、亜玲の手が俺の脇腹を撫でる。瞬間、俺は無意識のうちに身体をびくんと跳ねさせてしまった。 「敏感だね。……こういうこと、されたことないの?」  亜玲がさも当然のようにそう問いかけてくる。……あるわけ、ない。 「あるわけ、ないだろ……!」  だって、そこまで信頼関係を築くよりも前に、俺はフラれてきたのだから。  ほかでもない、亜玲が原因で。 「お前の、所為で……!」  必死に亜玲を睨みつける。だが、こいつは笑うだけだった。楽しそうに、嬉しそうに、愉快だとばかりに。  欲を孕んだ目で俺を見下ろして、亜玲が笑う。……身体が、きゅんと反応してしまう。 (違う、こんなの、俺の気持ちじゃない……!)  そう思うのに、亜玲に身体を撫でられていると、経験したことのない疼きが身体を襲った。  自然と喉が鳴って、油断したら声が漏れてしまいそうだ。 「ぁっ」 「いいよ、声、上げて。ここ、防音だから」  にっこりと笑った亜玲が、俺を見下ろして身体を撫でる。……防音、なんだ。 「ぁ、あっ、っ」  際どいところにも触れられて、小さなうめき声が漏れる。  ……ダメだ、これ以上は本当にダメだ……! 「や、めっ」  亜玲の手に自身の手を重ねて、必死に奴を制止させようとする。しかし、手に力が入らない。 「やめてほしいの?」  俺の言葉を聞いて、亜玲がそう尋ねてくる。俺はこくこくと首を縦に振ることしか出来ない。  そんな俺を見て、亜玲が俺の耳元に唇を近づけた。そのまま、耳朶を軽く噛まれて目を見開く。 「やーだ。……こんなところで、やめられるわけがないんだから」  耳元で、艶めかしい声でそう囁かれる。  それだけで、身体の芯がじぃんと熱くなった。……ダメだ、ダメだ。  このままだと、俺は亜玲に――。  そう思うのに、耳の孔に舌を差し込まれて、ぴちゃぴちゃと音を立てて舐められると、身体が反応してしまう。  亜玲の手は俺の腹から胸に移動していく。薄い胸をなぞって、硬くとがった先端に触れる。 「んっ!」  ぴりりとした快感が身体中を駆け抜けて、自然と喉が反る。 「感じちゃうんだ。……可愛いね」  耳元で亜玲がそう囁いた。かと思えば、亜玲の指が俺の乳首をぎゅっとつまみ上げた。先ほどよりも、ずっと強い力で。 「ぁっ」  先ほどよりも、声が漏れた。  気持ちいい。頭がそれだけに支配されて、もっとしてほしいという欲求が生まれる。

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