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 ベッドサイドにあるテーブルの引き出しから、亜玲が小さな容器を取り出したのがわかった。  そして、なんのためらいもなくその容器のふたを開けて、中身を指に垂らす。ぬるりとした液体が、亜玲の指を濡らしていた。 「……じゃ、ちょっと力抜いてね」  亜玲がそう言って、その濡れた自身の指を俺の後孔に挿しこんでくる。 「ぁっ」  自然と喉が鳴る。  身体がびくんと跳ねて、亜玲の指を自然と追い出そうとしてしまった。  けれど、亜玲は容赦がなかった。液体でぬるついた指を、奥へ、奥へと押し込んでいく。 「あ、れい……やめろ……」  身体の奥底がきゅんきゅんとして、亜玲の指を締め付けているのがわかってしまう。  でも、それを認めたくない。  ぶんぶんと首を横に振って、亜玲の手から逃れようとする。なのに、亜玲は手を止めてはくれない。 「ほら、力抜いて。……力入れると、傷つけちゃうかもだから」  普段通りの柔らかい声音だった。  奴の声はさも当然のことをしているとでも言いたげだった。 (こういうの、身体だけの関係って言うんだよな……)  抱いて、抱かれて。  かといって、そこに愛情はない。ただの性欲処理とでも言えばいいのだろうか。  亜玲からすれば、長年側にいた幼馴染を抱くというのは、どういう感じなのだろうか。  ……そんなこと、俺が想像したところでわからないだろうに。 「ひぃっ」  そんなことを考えている間にも、亜玲の指が俺の身体の中でうごめいている。  ぬちゃぬちゃと音を立てて、俺の身体を暴いていた。  ……羞恥心なんてとっくに飛び越えて、おかしくなってしまいそうだった。 「……祈、怖いの?」  亜玲がそう問いかけてくる。  ……怖い……のは、認める。だって、未知の体験なのだ。  自分がオメガである以上、抱かれる側であるということは薄々感じていた。  けどさ、いきなりこんなことになって狼狽えないわけがない。 「だ、れがっ!」  ただ、亜玲には素直に「怖い」と言えなかった。  怖くない。恐ろしくもない。だから、俺はお前には屈しない。  振り向いて、亜玲を睨みつけようとした。  ……亜玲の目を見た瞬間、背筋が凍った。 「……あ、れい」  亜玲の目が、完全に雄だった。  獲物を見つけて、捕食しようとしている肉食獣か。または、確実に孕ませると決めた雄なのか。  そんな風に、見えてしまう。……自分の気持ちとは裏腹に、腹の奥が疼く。 「可愛いね。……本当は怖い癖に、認めないなんて」  そう呟いた亜玲が、舌なめずりをする。  その仕草の艶っぽさとかで、俺は亜玲から視線を逸らせない。  惹きつけられたように亜玲を見つめ続けていれば、亜玲が目を細めて笑った。 「なに? 俺に孕まされたくなった?」  直球の問いかけだった。慌てて顔を背けて、そんなわけがないと態度で伝える。  そうだ。違う。腹の奥が疼いていても、本能が亜玲というアルファを求めていたとしても。  俺は、亜玲にだけは犯されたくない。孕まされたくない。間違いなく、そう思っている。 「けど、ナカはひくひくしてるよ。……口ではなんとでも言えるのに、身体は素直に教えてくれるんだよ」  亜玲が、指を思いきり曲げた。そのとき、目の前がちかちかとした。  今までに感じたことのない快感で、自然とベッドのシーツを握りしめる。 「祈、可愛いね。……孕ませたいって、俺は本気で思っているから」  亜玲が俺に覆いかぶさってきたことから、背中越しに伝わる体温。  奴の手は、指は。絶え間なく動いている。俺のナカを拡げるようにうごめいていて、俺の身体を作り替えていく。 「大丈夫だよ、怖くない、怖くない」  まるで幼子をあやすかのような口調に、腹を立てることさえできなかった。  喉が鳴って、手でシーツを掻くことしか出来ない。  身体ががくがくと揺れて、びくびくと震えてしまう。……あぁ、もう、ダメだ。 「……あ、れい」  名前を呼んだ。俺が見た亜玲は、笑っていた。

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