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「……は?」  自分でも驚くほどに素っ頓狂な声が出た。  視線をずらして、亜玲を見つめる。亜玲は、ニコニコと笑ったままだった。 (冗談、なのか? それとも……)  亜玲の表情からは、この告白が本気なのか、はたまた嘘なのか。それさえ読み取れなかった。  その所為で、俺の頭は混乱してしまう。亜玲のことを、ぼうっと見つめてしまった。 「俺はね、祈のことが大好きなの。ずっと、ずーっと、ね……」  何処となく執着心を孕んだような声でそう言われて、背筋がぞっとした。  亜玲の腕が、俺のことを抱きしめる。ぎゅうっと抱きしめられて、まるで抱き殺されるのではないかと思うほどだった。 (これは、子供が力加減を誤って玩具を壊すみたいな……)  そんな雰囲気さえ、感じられる。 「……あ、れい」  亜玲の名前を呼んで、目を見つめた。  亜玲の手が、俺の身体の上を這う。腰を撫でて、腹を撫でて。胸まで撫でられた。  身体中になんとも言えない感覚が這いまわる。 「……祈が、俺の腕の中にいるんだ……」  うっとりとした声でそう呟いた亜玲。対する俺の背筋は、ゾクゾクとしている。  「離せ」と言いたいのに、その一言が口から出てくれない。  じっと亜玲に抱きしめられていれば、腕の拘束が緩んだ。 「あのさ、祈」 「……あぁ」  端的に呼ばれて、素っ気なく返事をする。  亜玲は俺の首筋に顔をうずめた。ふわりとした甘い香りが、俺の鼻腔をくすぐる。こいつの香水か、なにかなんだろう。 「この後暇でしょ? 一緒に出掛けようよ」  けれど、それはいただけない。  なので、俺は「嫌だ」と端的に言葉を投げ返した。 「どうして? 今日は土曜日だし、講義もないんだよ?」 「それはそれ、これはこれだ」  亜玲と仲良く出掛けるなんて、絶対にごめんだ。  心の奥底からの気持ちを口に出せば、亜玲がむすっとしたのがわかった。 「祈。祈は、俺の、でしょ?」  まただ。執着心を孕んだような声で、俺のことを呼ぶ。本能がざわめく。 「……お前のになった覚えはない」  が、本当にそうなのだ。一度抱かれたからといって、亜玲のものになるなんて決めていない。  そういう意味を込めてゆるゆると首を横に振れば、亜玲の手が俺の顎を掴む。そして、固定した。 「祈。……俺の言うこと、聞いて」  亜玲が俺の顔を覗き込んで、そう言う。  ……顔を固定されている所為で、視線を逸らすこともできない。 「今まで散々焦らしてきたんだから、俺のお願いくらい聞いてくれてもいいじゃんか」 「……焦らすって」  そんなことをした覚えはない。  ついでに言えば、なにがこいつをここまで動かしているのかもわからない。 「ほかの輩と付き合ったりして、俺の心を弄んだくせに」  亜玲が小さくそう吐き捨てた。  ……別に、それは亜玲の心を弄んだわけじゃない。そんなつもりは一切ない。 「そんなつもり、ないけど」 「俺はそう思ったの」  なんだこれ。口論にも満たない、痴話喧嘩。  けれど、軽口をたたき合っているとまるで昔に戻ったみたいだった。  ……まったくもって、不本意なことに。 「ほら、朝ごはん食べて。俺がシャワーを浴びて、着替えたら行くよ」  亜玲は俺を説得するのは諦めたらしい。それだけを言う。  ……もう、なにもかもが面倒になってしまった。 「……はいはい」  どうせ亜玲のことだ。一度付き合えば飽きるだろう。  それに、もういい加減意地を張るのも疲れてしまった。……というよりも。 (腹減った……)  昨夜からなにも食べていないのだ。俺の腹はぺこぺこで、とにかくなにかを腹に入れたかった。 (うま……)  口にした朝食は、信じられないくらいに美味だった。  ……亜玲の奴、どういう風に作ったんだろうか。そんな疑問を抱くほどだった。

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