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 その後、俺が亜玲に連れてこられたのは、数駅先にあるショッピングモールだった。  今日は土曜日ということもあり、ショッピングモールには割と家族連れが多い。さらにカップルであろう人たちもたくさんいる。 (いや、なんで……)  休日のショッピングモールといえば、デートスポットの定番だろう。  それは、恋愛経験の乏しい俺にもわかる。  だから、思うのだ。いくらなんでも、こんなところに連れてくるのは違うだろう。 「亜玲。……付き合うとは言ったけれど、ショッピングモールだとは聞いてないんだけど」  隣を歩く亜玲の顔を見上げて、そう問いかける。すると、亜玲の視線が俺に注がれた。亜玲は笑っていた。 「そりゃあ、言ってないからね。……だって、嫌でしょ?」  わかっているのならば、連れてこないでほしい。  そういう意味を込めて亜玲を睨みつければ、奴はただ笑みを深めるだけだった。 「……あのなぁ」  俺が亜玲に小言をぶつけようとしたとき、不意に手を掴まれた。  それに驚いてそちらに視線を向けると、俺の手を掴んでいるのは当然ながらに亜玲だった。  亜玲は俺の手を掴んだかと思うと、今度は指を絡めてくる。……いわゆる、恋人つなぎという奴だ。 「あ、亜玲!」  絡められた指を解こうとする。なのに、亜玲は手に力を込めた。これじゃあ、指を解くこともできない。 「別にいいじゃん。減るもんじゃないし」 「……へ、減るもんじゃないって」  確かに指を絡めたくらいで減るようなものはないかもしれない。  あえて言うのならば、俺の精神がすり減るくらいだろうか。  ……それも、大問題か。 「ほら、行くよ」  そんな俺の気持ちを無視して、亜玲が足を前に進めていく。  指を絡められている所為で、俺は亜玲についていくことしか出来ない。 (……そう、いえば)  昔は、よく亜玲と出掛けたっけな……。  もちろん当時は子供だったので、互いの家族を含めてだったけれど。  いつからか、亜玲と仲違いして、俺は亜玲を嫌うようになって……。 (こいつは、俺に嫌われてどう思っていたんだろう)  今更ながらに、そう思った。  亜玲は俺に嫌われてどう感じたんだろうか。嫌われるようなことをしたのは亜玲だ。が、初めに酷いことをしたのは俺で……。  過去に浸りつつ、亜玲を見上げた。亜玲の後頭部が見えて、なんだか照れくさくなる。  昔は俺のほうが身長が高かったのに。気が付いたら、亜玲には抜かされていて、体格だって亜玲のほうが立派になった。  そりゃあ、オメガである俺はアルファの亜玲には勝てない。それくらい、頭の中では理解している。  心の中には、昔の天使のような亜玲がまだ住み着いているんだけれど。 「……亜玲」  小さく亜玲のことを呼ぶ。そうすれば、タイミングよく亜玲がこちらに視線を向けた。亜玲は、嬉しそうに笑う。 「なぁに、祈?」 「……なんでもない」  亜玲の言葉に、素っ気なく言葉を返す。  なんでもない。そうだ、なんでもない。  ほんの少し過去に浸っていたとか、懐かしい気持ちを抱いていたとか。そういうの、亜玲には関係ない。亜玲には知られるわけにはいかない。 「そっか」  亜玲は問い詰めてはこなかった。が、俺の手を握る手に力がこもったような気がする。  ぎゅっと握られた手が、震えているような気がする。 (……もしかして、亜玲にはなにか怖いことがあるのか?)  不意に、そんなことを思ってしまった。  亜玲にはなにか恐れていることがあって、それを誤魔化すために明るく振る舞っているのかも……とまで想像して、やっぱりやめた。  だって、そうじゃないか。俺は亜玲に深入りしたくない。亜玲だって、俺なんかには深入りされたくないだろう。  番でも恋人でもない。ただの、幼馴染の男。  自分を卑下してそう思っていたとき、頭の中によぎったのは――朝食の際に亜玲が俺に囁いた、意味の分からない言葉だった。
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