21 / 24

2-6

 そんな俺の脳内なんて知りもしない亜玲は、ずんずんとショッピングモール内を進んでいく。  途中、色々な人たちが俺たちのことを見る。でも、別に同性のカップルが珍しいわけじゃない。ただ、みんな亜玲に見惚れているだけだ。  ……そもそも、俺たちはカップルなんかじゃないし。 「……亜玲、何処に行くんだよ」  亜玲の足取りには、迷いがない。まるで、目的地はすでに決まっていると言いたげだった。 「内緒」  俺の問いかけに、亜玲は淡々とそう返してくる。  ……内緒って。 (まぁ、ついていくか……)  でも、付き合うと決めたのは俺自身だ。  そう思いなおして、俺は亜玲と手をつないだまま移動する。  手を振り払いたいという気持ちも、絡めた指を解きたいという気持ちも、たくさんある。けれど、亜玲の手が微かに震えているような気がしたから。  その所為で、俺は亜玲の手を振り払えない。黙って亜玲に引っ張られていく。  そして、連れてこられたのは衣服売り場だった。  ショッピングモールということもあり、高級ブランドとかじゃない。何処にでもある大量生産品。 「ごめんね、祈。本当はもっといいものを買ってあげたかったんだけど……」 「……いや、別にいいんだけれど」  申し訳なさそうな亜玲の言葉に、俺は端的にそう返す。  ちなみに「別にいい」の意味は高級ブランドじゃなくてもいいというわけではなく、買ってもらわなくてもいいという意味である。  多分、伝わってないんだろうけれど。 「俺ね、ずっと祈にいろいろと買ってあげたかったんだ。……祈に似合うものをたくさんプレゼントしたかった」  亜玲がそう言って、薄手の上着を手に取る。  それは、俺よりも亜玲に似合いそうな一品だった。 「……あのさ、亜玲」  さすがにこのまま流されるのはマズイ。その一心で、亜玲に声をかける。  が、それとほぼ同時に亜玲がハッとする。かと思えば、早足でどんどん進んで、小物売り場へと向かう。  俺は、ついていくことしか出来ない。 「祈、俺、祈にチョーカーをあげたい」  にっこりと笑った亜玲が、そう言ってくる。  自然と俺の眉間にしわが寄った。  だって、俺がチョーカーを着けているのは番事故を防ぐためだ。それだけのためであり、別におしゃれをしているわけじゃない。 「亜玲、あのな、これはおしゃれじゃないんだよ」  俺だって好きでこんなものを着けているわけじゃない。目を細めながらそう告げれば、亜玲は「知ってるよ」という。 「祈は、番事故を防ぐためにそれを着けている。……嫌というほど、知ってる」 「……じゃあ、なんで」 「首って、とっても大切な場所じゃん」  なにを今更――喉元まで出かかった言葉を、呑み込む。  亜玲の目は真剣だった。 「俺が買ったものがそこにあるっていうことは、祈と俺は一心同体だっていうこと。わかる?」 「全然わからん」  本当に、こいつはなにを言っているんだろうか?  亜玲って、頭もいいはずなんだけどな……。  もしかして、亜玲は一周してしまってバカなのだろうか? 「……じゃあ、それっぽい理由をでっちあげる。祈に俺が買ったチョーカーを着けさせることで、俺のものだって見せつける」 「誰も、亜玲の所有物になった覚えはないんだけど」  なんだろうか。ちっとも話がかみ合わない。通じない。  しばらくして、頭が痛くなってきた。……亜玲の奴、こんなにも話が通じない奴だっただろうか? 「誰も、なんて言わないで。……俺が欲しいのは、祈だけなんだから」  亜玲は俺の言葉の小さなところを切り取って、口にする。  その後、一つのチョーカーを手に取って歩き始めた。 「これにするね。……祈への、プレゼント」  にっこりと笑った亜玲が、そう告げてくる。  ……絶対に、人の話を聞かないタイプだ。  そんなこと、昔から知っているけれど。なんていうか、今、再認識したというか……。
10
いいね
0
萌えた
0
切ない
0
エロい
0
尊い
リアクションとは?
コメント

ともだちにシェアしよう!