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食堂を出て、キャンパス内を適当に散歩することにした。
行く当てもなくぶらぶらするのは割と好きだ。講義と講義の間にキャンパス内を散歩することもよくある。
少し歩いたとき、後ろからぽんっと肩をたたかれた。
「……亜玲」
振り返ると、亜玲がいた。俺を見た亜玲の頬が緩む。
「祈、今時間ある?」
その聞き方はやめてほしい。
先に用件を話してくれ。
「なんの用事?」
素っ気なく返すが、亜玲は気を悪くした様子もない。ただし、答える気もないようだ。
(俺に先に答えろってか)
ため息をついてしまいそうになった。
が、ため息をこらえて、スマホを見た。
「一時間くらいならあるよ」
現在の時刻は十三時半。
十五時から先約があるので、移動時間なども考えて一時間が限界だろう。
「そっか。このあとなにかあるの?」
「お前に教える必要ないだろ」
冷たく突き放すものの、亜玲に大したダメージを与えることはできていない。
結局、俺はこうやって亜玲に振り回されるのだ。
「教授と約束してるんだよ。この前の講義で個人的に聞きたいことがあって」
わからないところを放置するのは好きじゃない。
「ふぅん。そう。……でも、今の状態で行くのやめたほうがいいと思うよ」
「は?」
「おいで」
俺の手首を亜玲がつかむ。強引に俺を引っ張って移動していく。
「ちょ、亜玲! どういうことだよ」
前を歩く背中に問いかけても、返事はない。
結局連れてこられたのは、建物の裏手だった。ここは人がほとんど通らない場所で、恋人たちの密会スポットとなっているとうわさに聞いている。
「なぁ、亜玲。どういうことだよ?」
亜玲の瞳をじっと見る。亜玲は困ったような笑みを浮かべた。
「祈、もしかしてなにかあった?」
「はぁ? なんで」
「今の祈変だよ」
いきなりの悪口に、カチンときてしまう。
「俺は普通だよ」
「もしかして無自覚?」
亜玲が俺の肩をつかんだ。指が食い込んで、小さな痛みを覚える。
「今すっごく、思い詰めた顔してる」
俺の肩をつかむ亜玲の手がするりと移動した。今度は俺の頬を撫でる。優しく、あやすみたいに。
「こんな表情をしてると、祈ってすごく色っぽいんだよ」
「俺、男だけど」
「色っぽいのに男も女も関係ないよ。それに、祈は美人なんだから気を付けないと」
誰が美人だ、誰が! 俺が美人だったら、亜玲はどれだけ……。
「ねぇ、祈は知らないだろうけど、祈の思い詰めた顔ってすごくそそる」
亜玲の指が顎を引っかけた。強引に視線が絡み合い、自然と息を飲む。
双眸に見つめられてしまうと、吸い込まれてしまうみたいだ。
「俺って変なのかな。祈が俺以外のことで思い詰めてると、嫉妬するんだ」
万が一、俺が今思い詰めているのなら――根本の原因は、間違いなく亜玲だ。
(城川が原因だし)
あいつの言葉が頭から離れていないだけだ。つまり、亜玲のせい。
「俺の行動や言動だけで泣いてよ」
「お前、変態だよ」
「うん、そうだよ。俺は祈に対してだけ、変態になるの」
易々と認めないでほしい。
それに、誇れることじゃない。恥ずべきことのはず。
「だから、ほら。俺のことで頭をいっぱいにして」
もう片方の亜玲の手が、俺の腰に回った。自然と身体が硬くなる。
亜玲の手は腰から下がっていき、臀部に触れた。同時に亜玲の顔が俺の首筋に近づく。
「可愛い。もっといじめていい?」
「亜玲っ!」
こんなことされたら――頭の中がめちゃくちゃになる。
さっきまで考えていたこととか、全部消えてしまう。
「や、ぁっ。やめ、ろ……!」
亜玲の息遣いがすぐそばから聞こえる。
身体がぴくぴく反応してしまう。変な声を上げちゃいそう……。
「俺の可愛い祈」
臀部に触れていた指が確かに『ソコ』に触れた。
この間、亜玲を受け入れた『ソコ』に亜玲が触れている。恥ずかしいのに――甘い快感が身体に流れた。
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