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 倒れてから数日が経ち。  数日休んだこともあり、体調はすっかり良くなった。 「しかし、倒れたなんて聞いたときは驚いたよ」 「……ご心配をおかけしまして」  南場先輩の言葉に俺はそういうことしか出来なかった。  対する先輩は「本当にな」と言いながら空を見上げる。 「そこがお前の悪いとこだよな。肝心なところの自己管理ができていないっていうか」 「返す言葉がございません」  オメガなのだから、ヒートについて気を付けるのは当然のことだった。  ……たとえ、ほかに考えることが多かったとしても。 「けど、幸運だったじゃんか。助けてもらえたんだろ?」 「……そう、ですけど」  歯切れの悪い俺の言葉を聞いた先輩が立ち止まる。 「その倒れてくれた相手が、亜玲だったんです」  続いた俺の言葉に、先輩はなにも言わなかった。 「俺、亜玲の考えていることがわからなかった。ただ、このことでさらに分からなくなって」  誰かに話したら、頭の中を整理することができるかと思った。でも、効果はない。 「どうしたらいいんでしょうか……」  先輩の意見を聞きたかった。  顔を上げて先輩を見つめると、先輩は大きくため息をついた。 「なんでそれを俺に言うの」 「……先輩にしか相談できないからですね」  こんなことを相談できるほど気を許している相手は、先輩だけなのだ。 「あのさ、祈。たとえば、俺が『きっとからかわれただけだよ』って言ったら、どうするの?」  先輩の双眸が俺を見下ろした。強い目力に押されて、息を飲む。視線を逸らした。 「祈は俺の言葉を信じて、俺の言うとおりにするのか? そんなわけないだろ」  大きなため息がもう一度聞こえた。 「愚痴くらいならいくらだって聞く。こういう恋愛事以外の相談なら人生の先輩としていくらでも乗る」 「えっと」 「ただ、俺は祈の恋愛相談は受けたくない」  意志の強い言葉だった。俺の言葉程度じゃ先輩はこの意見を変えないだろうともわかる。 「祈は自分がどれだけ残酷なことをしてるか、わかってるの?」 「残酷なこと」 「鈍いところが好きだよ。でも、今ばかりは腹が立って仕方がないんだ」  俺を置いて行こうとするみたいに、先輩が早足で歩きだす。慌ててついて行ったけど、途中で先輩が立ち止まった。  そのせいで俺は先輩の背中に顔を強打してしまう。 「……あれって」  小さな声に導かれるように顔を上げた。  先輩の視線の先には、二人の男。小柄な男が、長身の男にしつこく話しかけているみたいだ。 「――亜玲」  そこにいたのは、亜玲と城川だった。  城川は一方的に亜玲にまとわりついており、亜玲は適当に相手をしているように見える。  でも、亜玲はちらちらと城川を見ている。その視線を城川は嬉しそうに受け止めていた。 「よくやるよな、アイツら」  先輩の呆れたようなつぶやきが耳に届く。  俺はなにも言えずにじっと二人の様子を観察した。 (城川は亜玲が好き。対して、亜玲は城川をどう思ってるんだ?)  城川は自分は亜玲に好かれていない――みたいなことを言っていたけど、実際はどうなんだろうか。  少なくとも、今の亜玲は城川をそこまで邪険にはしていない。  胸が苦しくなる。亜玲は俺を「好き」だと言っておいて、ほかのやつにもいい顔をするんだろうか――? (なんで、こんなことで傷つくんだよ。今まで当然のことだったじゃんか)  疎遠だったじゃんか。俺と亜玲の間には距離があったじゃんか。  ……たった一度関係を持っただけで、俺って面倒なやつ。  自分の変化に戸惑いつつ、亜玲たちから視線が離せない。  ただひたすらじっと二人を見ていると、亜玲が振り返った。……俺と亜玲の視線が、ばっちりと合った。

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