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「ふ、ぁ」  言葉にならない声がこぼれる。  亜玲は俺の唇に何度もキスを落とした。  はじめは触れるだけのものだった。けど、どんどん深くなる。  俺を食べてしまおうとしているかのような口づけに俺の頭はくらくらした。 「――祈、可愛いね」  つぶやいて、亜玲が俺の衣服に手をかける。  やめてほしくてその手首をつかむものの、あっさりと振り払われてしまった。 「大丈夫、この間よりもっともっと――気持ちよくしてあげるから」 「ぁ、あっ」  亜玲に耳朶を噛まれた。耳の孔に息を吹き込まれると、背筋にぞくぞくしたものが這い上がってきて、身体から力が抜けていく。 (ダメだって、こんなの……)  俺と亜玲の関係は、恋人でもなんでもない。  そもそも、俺はこの間まで亜玲が嫌いだった。  これじゃあ、一度身体を重ねたからほだされているみたいじゃないか。 (違う。おれは、感じてない……)  腹の奥が熱いのは、気のせいだ。本能が亜玲を求めているのも、気のせいだ。  言い聞かせるのに、亜玲の双眸に宿った情欲を浴びていると、身体がどんどん熱を帯びていく。  身体から力が抜けて、くったりと亜玲にもたれかかった。 「そんなに期待した目で見ないで。……ひどくしちゃいそうになるでしょ」  亜玲の指先が背骨をなぞるみたいに、俺の背中を撫でた。 「ち、がう。期待してない――!」  首を必死に横に振って否定した。なのに、亜玲は小さく声を上げて笑う。 「嘘つき。――この間の思い出して、興奮してるでしょ?」  耳に吹き込まれる言葉は、呪文のようだった。不思議な力をまとって、俺の意思と関係なく身体を高ぶらせていく。 「俺のこと嫌いだって言ってたのにね」  嫌というほどに思い知らされているみたいだ。  俺の身体が快楽に弱いということを。 「今まで未経験だったの、奇跡だよね。……こんな可愛い身体、俺以外が触ってたかも――って思ったら、俺、そいつ殺してた」  亜玲の指先が俺の黒髪に触れる。くしゃっと撫でられて、後頭部を持った。 「もっとキスしたいよね。祈、キスが好きみたいだから」  唇が重なる。後頭部をつかまれていることもあり、逃げることができない。  頭がぼうっとして、このままだと窒息するのではないかという危機感が生まれる。 (けど、気持ちいい。亜玲の唇から伝わる体温が……安心させてくれる)  気づいたら舌をからめとられていた。くちゅくちゅと水音を立てて、深いキスをしていた。 「俺ね、すごく嫉妬したの。……だから、埋め合わせ、して?」  理不尽な言いがかりだ。自分だって城川といたくせに。 (でも、城川といたのは俺のせいだ。俺が原因じゃんか)  この間のお礼もろくにできてないし――。 「痛くしないし、辛いこともしないよ。……ただ、気持ちよくてぐずぐずに溶けちゃうかもだけどね」  本当に亜玲は悪魔だ。そう思わせてくるささやきだった。  無意識のうちに首を縦に振ると、亜玲は「いいこ」とばかりに頭を撫でる。  俺の瞼にキスを落とし、亜玲は笑った。 「ツンケンした祈も可愛いけど、素直な祈はもっと可愛いね。……もう、放したくない。閉じ込めてしまいたい」  亜玲の手が俺のシャツに触れて、ボタンを一つ一つはずしていく。ゆっくりした手つきは、落ち着いているみたいだった。 「あ、れい」 「うん? もしかして、もう我慢できない?」  なにも言えない俺に対し、亜玲はいい笑みを向けた。 「いいよ。じゃあ、もう下、触っちゃおうか」

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