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「――だからお前ら最近妙に一緒にいたのか」
男は納得したようにうなずいた。そして、紙パックのコーヒー牛乳をすすった。
「そうだよ」
俺はペットボトルのコーヒーを一口飲む。隣に座る男はベンチの背もたれにもたれかかって、空を見上げている。
「変だと思ってたんだよなぁ。あんだけ亜玲を避けてたお前が、最近亜玲と一緒にいるの」
音を立ててコーヒー牛乳をすすり、やつは紙パックを投げた。吸い込まれるようにゴミ箱に入った紙パックを見て、男はぐっとこぶしを握る。
「――で、お前はなんで俺にそれを言うわけ?」
「こんなの、お前にしか相談できないからだよ。――|礼音《れおん》」
隣の男――礼音を見つめた。
明るい金髪。たくさんのピアス。いかにもチャラいですという風貌のこいつは、|間山《まやま》 礼音。
俺と亜玲のもう一人の幼馴染だ。
「そりゃあ、俺は人よりも恋愛経験豊富だけどさ」
立ち上がった礼音が俺を見下ろす。鋭い瞳はなにもかもを見透かしているようで、居心地が悪い。
「お前らの恋路にアドバイスすることはない!」
はっきり言われて、俺はあんぐりと口を開けた。礼音は頭を掻く。
「正直、お前ら見てるこっちがもどかしいんだわ。めちゃくちゃわかりやすいし。特に亜玲」
「え、いや」
「気づいてないのお前くらいだって。ほかのやつはだいぶ早い段階から気づいてたぞ」
大きくため息をついた礼音に向って疑う視線を向けた。礼音は気にした様子もない。
「下手なことを言って亜玲に目を付けられたくないし、俺はなにも言わない」
「……なんだよそれ」
むっとして礼音をにらみつける。礼音はけらけらと楽しそうに笑っていた。余計にイライラする。
「亜玲はな、俺がお前の側にいることもよく思ってないんだよ」
「は? でも、ずっと一緒にいるだろ」
「それは俺がベータで、アルファやオメガじゃないからだ」
確かに礼音はベータだ。恋愛対象も女性限定だと公言している。
「もしも俺が祈に気があるそぶりでもしてみろ。あいつは俺を排除するさ」
「そこまでするか?」
「あぁ。これは幼馴染として長年の付き合いがあるからわかるけど、あいつの独占欲半端ないよ」
礼音の表情がにやにやとしたものに変わっていく。対する俺はもやもやを募らせる。
そもそも、礼音が気づいていて、俺が気づいていないってどんな状況だよ。
「見ていて可哀そうだったなぁ、亜玲。祈が全く相手にしてくれなくて」
「そ、それはあいつが悪いんだって!」
あいつが俺に嫌われるようなことばかりするから――!
「亜玲が俺に嫌われるようなことばっかり――!」
「――なぁ、祈」
俺に顔をぐっと近づけた礼音が、真剣な声をあげた。
「いつまでも意地を張ってるんじゃない。お前は自分の気持ちに向き合って、認めろ」
礼音は俺の肩をつかんだ。そのままぐらぐらと揺らしてくる。
「あとさ、どう頑張ってもお前は亜玲から逃げることはできないよ。あいつはお前を地の果てまでも追い掛け回す」
「こ、怖いこと言うなよ……」
「真実だ。冗談じゃない。長年お前らを観察している俺を信じろ」
こんなにも真剣に言われると、冗談だとは思えない。けどさ、でもさ。
(というか俺、亜玲とどうなりたいんだ――?)
最近の俺は亜玲に振り回されて、ほだされかけている。
そして、俺の心には。こんな日々も悪くないなって気持ちが、確かにある。
その気持ちこそが、俺を余計に混乱させているのだ。
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