40 / 40

4-1

「――だからお前ら最近妙に一緒にいたのか」  男は納得したようにうなずいた。そして、紙パックのコーヒー牛乳をすすった。 「そうだよ」  俺はペットボトルのコーヒーを一口飲む。隣に座る男はベンチの背もたれにもたれかかって、空を見上げている。 「変だと思ってたんだよなぁ。あんだけ亜玲を避けてたお前が、最近亜玲と一緒にいるの」  音を立ててコーヒー牛乳をすすり、やつは紙パックを投げた。吸い込まれるようにゴミ箱に入った紙パックを見て、男はぐっとこぶしを握る。 「――で、お前はなんで俺にそれを言うわけ?」 「こんなの、お前にしか相談できないからだよ。――|礼音《れおん》」  隣の男――礼音を見つめた。  明るい金髪。たくさんのピアス。いかにもチャラいですという風貌のこいつは、|間山《まやま》 礼音。  俺と亜玲のもう一人の幼馴染だ。 「そりゃあ、俺は人よりも恋愛経験豊富だけどさ」  立ち上がった礼音が俺を見下ろす。鋭い瞳はなにもかもを見透かしているようで、居心地が悪い。 「お前らの恋路にアドバイスすることはない!」  はっきり言われて、俺はあんぐりと口を開けた。礼音は頭を掻く。 「正直、お前ら見てるこっちがもどかしいんだわ。めちゃくちゃわかりやすいし。特に亜玲」 「え、いや」 「気づいてないのお前くらいだって。ほかのやつはだいぶ早い段階から気づいてたぞ」  大きくため息をついた礼音に向って疑う視線を向けた。礼音は気にした様子もない。 「下手なことを言って亜玲に目を付けられたくないし、俺はなにも言わない」 「……なんだよそれ」  むっとして礼音をにらみつける。礼音はけらけらと楽しそうに笑っていた。余計にイライラする。 「亜玲はな、俺がお前の側にいることもよく思ってないんだよ」 「は? でも、ずっと一緒にいるだろ」 「それは俺がベータで、アルファやオメガじゃないからだ」  確かに礼音はベータだ。恋愛対象も女性限定だと公言している。 「もしも俺が祈に気があるそぶりでもしてみろ。あいつは俺を排除するさ」 「そこまでするか?」 「あぁ。これは幼馴染として長年の付き合いがあるからわかるけど、あいつの独占欲半端ないよ」  礼音の表情がにやにやとしたものに変わっていく。対する俺はもやもやを募らせる。  そもそも、礼音が気づいていて、俺が気づいていないってどんな状況だよ。 「見ていて可哀そうだったなぁ、亜玲。祈が全く相手にしてくれなくて」 「そ、それはあいつが悪いんだって!」  あいつが俺に嫌われるようなことばかりするから――! 「亜玲が俺に嫌われるようなことばっかり――!」 「――なぁ、祈」  俺に顔をぐっと近づけた礼音が、真剣な声をあげた。 「いつまでも意地を張ってるんじゃない。お前は自分の気持ちに向き合って、認めろ」  礼音は俺の肩をつかんだ。そのままぐらぐらと揺らしてくる。 「あとさ、どう頑張ってもお前は亜玲から逃げることはできないよ。あいつはお前を地の果てまでも追い掛け回す」 「こ、怖いこと言うなよ……」 「真実だ。冗談じゃない。長年お前らを観察している俺を信じろ」  こんなにも真剣に言われると、冗談だとは思えない。けどさ、でもさ。 (というか俺、亜玲とどうなりたいんだ――?)  最近の俺は亜玲に振り回されて、ほだされかけている。  そして、俺の心には。こんな日々も悪くないなって気持ちが、確かにある。  その気持ちこそが、俺を余計に混乱させているのだ。

ともだちにシェアしよう!