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15話 悪役令息と幼なじみたち「第二十五回ルーファスを応援する会」
「第二十五回ルーファスを応援する会を開催する」
いつもの東屋に集まり、ローラントと幼なじみたちは、ルーファスに視線を向けそう宣言する。ルーファスは開催回数がおかしくないかと思ったが、口に出すことはない。テーブルに出された紅茶のカップを取り、一口飲んでやはり味がしないと思う。
サッシャと一緒ならなんでも美味しいのに、なんて考えているとアンドリューが声を掛けてきた。
「あ、この前の三回から飛んでるから疑問なんでしょー? 次は四回だと思ってた?」
「残念だったな、ルーファス!」
「お前が居ない時に何回も開いたんだ」
「噂の件もあって、日に三回場所を変えて行った日もあったよ。ルーファスはサッシャ君にべったりだから、呼んでも来ないし」
ローラントが金髪の王子様にあるまじき、にやにやした笑みを浮かべている。
「ローラント、王族としての体裁が崩れてる」
ハッとしたローラントは、両手で顔を覆って呻く。
「うう……幼なじみで親友の恋が面白くてつい羽目を外してしまった!」
「面白がるな」
「いや、面白いでしょこんなもん」
「そーそー。俺らの中で初めて恋したんだから、楽しまなきゃ……じゃなかった。協力しなきゃな!」
「本音がダダ漏れしてます。リースはまだまだお子様ですね」
「なんだとー!」
「なんです?」
言い合いを始めたリースとタルベットを、ローラントは止める。面倒臭いけれど放置するとたりはすぐ拗れるのだ。
「ふたりとも喧嘩しない。それで、サッシャ君には告白出来たのかい?」
それが一番の関心事だと、四人はティーカップをソーサーに戻し、じっとルーファスを見つめてきた。
「してない」
「はー!?」
「なんで!? チャンスなんていくらでもあっただろーが!」
「何のために私たちがあなたを呼ばずにいたと思ってるんです? ふたりの仲が進展するように、私たちは協力しているんですよ」
「……協力」
そんなものは頼んでないと言いたいが、四倍になって反論が返ってくるのが嫌でルーファスは口を噤む。
「本当に何やってんだ。あれだけ一緒にいたのに、好きの一言さえ言えないのか、このボンクラ」
「やーい、弱虫、臆病者ー!」
「他のことなら物おじせずにいくくせに、サッシャ君に拒否されるのが怖いのかい? でもそれを乗り越えた先に両思いっていう夢のパラダイスがあるんだから、勇気を出すんだ」
「……勇気」
「やっぱり俺たちが見本を見せないとダメみたいだな」
「そうだね、リース。最初はきみから行くかい?」
「よっしゃ、トップバッターはこの俺、リースだ! ……んん、えーと……タルベットパス。ちょっと考えさせて」
張り切って立ち上がったリースだが、すぐに思いつかなかったらしく、タルベットに代わってもらう。
「お前はいつもそうやって、人に甘えて。リースは本当にお調子者だな! いいか、よく聞け。……、お前の茶色の柔らかな髪に触れたり、琥珀色の瞳を覗き込んだり、その瑞々しい唇に口づけする権利が欲しい。お前の全てが欲しいんだ」
タルベットはそう言って、リースの頬に片手をあて、憂いを帯びた瞳で見つめる。
「タルベット……」
タルベットは我に返ったようにリースの頬から手を離し、メガネを押し上げる。
「つ、次はリースだ! もう思いついただろう!」
「え、えーと、その、……俺も同じように触れたいよ、タルベ……じゃなかった。サッシャ。俺に意地悪なところも優しいところも全部好きだよ」
ちらっとタルベットを見ながらリースは言い、そして恥ずかしそうに俯く。その耳も首も真っ赤に染っていたし、見えない顔も同じだろう。
「はいはいはい、きみたちの方はルーファスが片付いたら手伝ってあげるから、今はステイー!」
アンドリューが立ち上がり、ふたりの間に腕を差し込み引き離す。赤くなってもじもじしていたふたりはアンドリューに言われて慌てたように言い訳訳を口にした。
「ち、違う! 私たちは、ただ……、そのっ」
「だから、誤解……で、俺は……」
「はいはい、わかってるっつーの。もう、次に行くよ。んん……っ、せーの。きみが、好きだよ」
以上、というように席に着いたアンドリューに、タルベットもリースも驚いている。いつもならもっと情熱的なセリフが飛び出すはずなのに、シンプル過ぎる。
「アンドリュー、何か腐ったものでも食べて具合悪いのか?」
「もしかして調薬に失敗したとか?」
「失礼だな、俺が失敗なんてするわけないだろー。そんなこと言ってるとふたりに媚薬を仕込むぞー!」
「……やめてくれ」
「謝るから!」
「分かればよろしい」
「でも、アンドリュー。いつもと違ってとってもシンプルだけど、なにかあったのかい?」
アンドリューは不貞腐れたように唇を尖らせ、渋々理由を話した。
「俺だって真剣に告白して何回も玉砕してるんだよ。でも諦めるなんて出来ないないから何度も告白してるんだ。でも、気持ちを伝えるって難しくて、告白のレパートリーなんてとっくの昔になくなっちゃった。それに伝えるのはこの心の奥にある、大切な場所にしまった、一番綺麗な気持ちだから、簡単でも分かりやすくて伝わりやすい言葉がいいんじゃないかって思ったんだ」
「アンドリューの気持ちはきっといつか相手に伝わるよ。きっとね。……さて、ルーファス。皆の見本を見ただろう。ルーファスも告白しておいで。それでサッシャ君に振られたら、……わたしたちが慰めてあげよう。まあそんなこと絶対に起こらないと思うけどね。両思いになったら今度はサッシャ君も招待して、お祝いパーティーを六人でやろう。最終回ルーファスとサッシャ君を祝福する会だ」
「ローラント……だが」
「大丈夫。穏便に解消できるよう手を尽くすよ。きみにもサッシャ君にも何の瑕疵も残らない形でね」
ふたりはまだ婚約者同士だ。解消しない限り、未来はない。それでもローラントは大丈夫と言う。
「わかった」
ルーファスは頭を下げると、サッシャを探しに行こうと思う。ずっと協力してくれていた幼なじみたちに背中を押され、温かい気持ちになる。
「ありがとう」
ルーファスは自然に微笑みが零れた。
「今の見た?」
「見た……」
「夢でしょうか」
「ルーファス、笑ってたね」
あんなに嬉しそうなルーファスの笑顔なんて、久しぶりに見たと四人はぼんやりしながら呟いてる。
「さて、ふふ……、やっとルーファスの背中を押して送り出せたね。今度こそ上手くいくと良いんだけど」
「まあなー。今学園中でルーファスがサッシャ君を虐めてるってゆー噂でいっぱいだし、なんか学園中がおかしくなってないか?」
リースが言うと確かにそうだと思うと、みんな頷く。少し冷めてしまったお茶で喉を潤していると、こちらに走り寄ってくる人影が見えた。
「なあ、あれって……」
「サッシャ君だな」
「なんて間の悪い。ルーファスを呼び戻さなければ」
ルーファスが探しに行ったはずのサッシャがこちらに向かってきていた。
「あ、転けた」
「サッシャ君、よく転ぶよね」
「確かにー!」
和やかに話しながらサッシャが来るのを待っていると、いつものにこやかな笑顔はなく、青ざめて真剣な表情をしていた。
「あの、お話が、あります」
***
僕はルーファスが去るのを見届けると、こっそり東屋に忍び寄った。今日は昼食を一緒に取ってから、ルーファスを避けまくっていた。学園中を回ってやっと東屋に到着した僕は、五人が和やかにお茶を楽しんでいる姿を隠れて見ていた。
ルーファスが東屋から出ると、僕は隠れていた場所から飛び出し王子たちのところまで急ぐ。途中、小石か小枝なのかわからないものを踏んで転びそうになったが気合いで地面に転がるのを我慢する。僕だってやる時はやるんだ。
にこやかに迎えてくれる王子と幼なじみたちに、今からとても酷いことを話す。
緊張で胃が口から飛び出しそうだ。
「あの、お話が、あります」
僕の表情にいつもと様子が違うと思ったのか、四人は笑みを消して僕に椅子を勧めてきた。僕はそれを断り、地面に座り込む。
「え?」
「ちょっとサッシャ君!?」
「た、立って! こんなところルーファスが見たら殺される!」
「なにがあったのか知らないけど、そんな所に座ったら制服が汚れてしま……」
「僕がルーファスに悪役令息になってと頼みました!」
ガバッと頭を下げ土下座した僕の頭上から、ただならぬ雰囲気が漂ってきた。僕は腹にぐっと力を入れ、続きを話す。
「本当に申し訳ございません。心からお詫びいたします。……ルーファスらしからぬこれまでの行動は、全て僕が指示したことです。今噂になっている、僕を虐めているというルーファスに全く相応しくない行動も全て僕の所為です」
「え?」
「ちょ、ちょっと待ってサッシャ君!」
「ルーファスのあの奇妙な行動が君の指示だって?」
王子と幼なじみたちの頭にはてなマークが浮かんでいるのがわかる。
「なんでそんな真似……」
「今からその自分勝手な理由を話します。信じてもらえないかもしれませんが、全部、正直に、話します」
聞いてください! とさけび、僕はもう一度頭を地面につけて懇願した。
「聞くから! だから立って! お願いっ!」
「……とりあえず、そこから立ってこちらに座られては。そんな格好で話されても内容が入ってきませんし」
「ちゃんと、聞かせて!」
リース、タルベット、アンドリューときて、最後にローラントが締めくくる。
「謝りたい気持ちはわかったよ。ちゃんと聞いてあげるから、こちらへ」
「……はい」
王子に促され、僕は椅子に座る。汚れた膝が見えたが、払う気にもならない。
緊張で胸が苦しい。
「それで、ルーファスに悪役令息になって欲しいと頼んだって話だけど……」
「はい。全てお話します。僕は前世の記憶があります」
それを言った途端、周囲の雰囲気が一変した。わかっている。あまりにも荒唐無稽な話だ。僕だって前世そんなことを言われたら、この人まだ厨二病かぁと思っただろう。でも今はそんなことを気にしている場合じゃない。
「サッシャ君、あの……」
「おっしゃりたいことは重々承知いたしております。ですが、先に話を聞いてください」
「わかった」
「僕はこの世界ではない日本と言う国で産まれました。病気でほとんどベットにいるような生活でした。でも、ゲーム……この世界では観劇や本のような物語を自分で進める遊びがあったんです。その中で僕は、今の僕を動かして遊んでいました。恋をする、遊びです。攻略対象者……つまりお相手は五人、王子にその幼なじみの方々、そしてデューダー先生です」
「はあっ!? 言っとくけど、先生は渡さないからっ!」
「え、あの……はい。僕は王子のルートしかやったことがないので、先生のルートのことはわかりません。人の良さそうな顔してますけど、結構な腹黒だと公式サイトに載って……」
「なんだって! 先生はそんな人じゃないっ!」
「は、はい。そうですね。蛇足でした」
「話が進まないから、アンドリューは静かにしようね。それで攻略対象対象者というのは一体なんなのか教えてくれるかい?」
「はい、攻略対象者とはゲームの中でヒロイン(♂)が恋をする相手のことです。どの相手を選ぶかでルート、つまり出来事が変わってきます。王子と幼なじみの方々はヒロインの恋の相手と言うことです。そのヒロイン(♂)に転生したのが、今の僕です」
「はー? なら、ルーファスはなんなんだよ!」
「ルーファスはヒロイン(♂)と恋をする攻略対象者との間を邪魔する、悪役令息でした」
「そんなのルーファスじゃない!」
「おっしゃる通りです。ルーファスはそんなことをしません。貴族令息なのに公平で誰より優しくて僕のこんな我儘をきいてくれた……。僕が頼んだから、ルーファスはいつものルーファスじゃ絶対しないことをしたんです」
「なぜわかっていながらそんなことをルーファスに頼んだんだい?」
「僕は前世で病院にずっと入院している時、一度でいいから学校に通ってみたいと思っていました。一度でいいから、恋もしてみたいと。僕はヒロイン(♂)としてこの学園に入学して、それで……」
「それで?」
促され僕はゴクンと唾を飲み込む。緊張で声も体も震えてしまうが、最後まで理由を話さなければならない。
「ごめんなさい。僕は、王子に恋をするために、ルーファスに悪役令息をやってもらってました」
「は?」
「え?」
「なんだって?」
幼なじみの四人が驚いたように腰を浮かせた。王子も同じように呆気に取られた顔をしている。
「えーっと、わたしに恋してるの?」
本当に? と続きの声も聞こえた気がした。
「してません」
「「「「????」」」」
訳のわからない話を聞いている四人は、頭にクエスチョンマークをつけている。
「じゃ、じゃあ誰に恋してるの?」
ゲームの中での攻略対象者はここにいる四人と、教師のデューダーだ。
誰になんて決まってる。でも言えるわけがない。僕は恋しても叶わない相手に恋してしまった。思わず俯いて、膝に置いていた握りしめた拳を見つめる。それから僕は顔を上げて、王子を見つめた。
「誰にも……今までルーファスのおかしな言動は全て僕が頼んだことです。いわば自作自演なんです」
自作自演と言った後、リースが思い出したように問いかけてくる。
「あ、下民がって言ったあれ?」
「そうです。顎をあげ、顔の角度は斜め十五度、視線を流して言うように教えました」
「顔の角度まで計算しくされている!?」
「感心してる場合!? ってことは、ローラントから離れろってやつも?」
「悪役令息はヒロイン(♂)の邪魔をする存在だとルーファスに教えました。ルーファスのアドリブもありますが、ほとんど僕が指示しました」
「悪役令息って、……サッシャ君きみはルーファスが、婚約破棄されて修道院に入れられても良いと思ってたの」
その言葉にびくりと体が震えた。そんなことなんて考えていなかった。けれど今はわかる。僕はルーファスにそんな未来になる行動をさせていたのだ。
悪役令息がどうなろうが、知ったことではない。ゲームの中のヒロイン(♂)や攻略対象者ならそう言ったかもしれない。
「僕は……、そう、です」
そんなことを考えていなかったなんて言い訳はできない。少し考えればわかったことだ。ルーファスの貴族令息としての未来に傷をつけてしまうことくらい。
王子と幼なじみたちは驚いたように目を見開いて、目配せをしあい顔を近づけてこそこそと話し始めた。僕はどんな罰だって甘んじて受けるつもりだ。
「ど、どうする? こんな告白考えてなかった」
「ルーファスが振られたら海の見えるコテージを借りて大騒ぎするとか、城下に降りて酒場に入るとかしか考えてなかった!」
「ってゆーか、なんで婚約解消したらルーファスが修道院に入るんだよ! 真実の愛ってゆー舞台の世界じゃあるまいし!」
サッシャの告白は特大級の変化球で、打ち返すどころか三人は翻弄されている。その中でローラントだけは真っ直ぐにサッシャを見つめて、口を開く。
「わたしに恋すると言ったけれど、きみは本当にわたしに恋出来るの?」
「……出来ません」
本当にはっきりと言えるほど、王子に恋はしていなかった。いつだって恋したいと思っていたのに、いつも目を奪われるのはルーファスに対してだ。僕は首を振ってそれを否定すると、目に見えて四人はホッとしている。
「ルーファスに恋してないの?」
それはとても静かな声だった。そして偽りを許さない声だった。
「……してます」
偽りは言えなかった。王子には本当のことを言うしかない。だって、ルーファスに恋しないなんて出来るはずがない。
いつだって困っていると手を差し伸べてくれる、いつだって僕を大切にしてくれる、いつだって真っ直ぐに僕を見てくれた。
そんな人今までいなかった。好きになるなと言う方が無理だ。
「僕は侯爵令息に対して不敬の限りを尽くしました。私利私欲でルーファスを利用した僕は、この学園にふさわしくない。退学します」
今日、王子たちに真実を話すと覚悟してから、これも決めていたことだ。
「いやいやまって!」
「せめてその「恋してる」ってところだけでも、ルーファスに言ってくれない?」
「二人とも何バカなこと言ってるのー。この子、俺たちを騙してたんだよ。ルーファスに悪役令息なんてやらせてたんだよ 酷い毒婦だ!」
リースとタルベットとは違い、アンドリューは僕に対して怒ってくれている。それが当たり前だ。友達を馬鹿にされたら誰だって怒ると思う。僕にはいないけれど、ルーファスにこんなに素敵な友達がいて良かった。
「はい。僕は酷い人間なんです」
「っ!」
素直に認めたらアンドリューはそれ以上何も言えないでいた。幼なじみたちがアンドリューを囲んで抱きしめてあげている。羨ましくてたまらない光景がそこにある。こんなことをしなければ僕にもいつかそんな相手が出来ただろうか。
いや、僕には大切だと言ってくれたルーファスの言葉がある。それだけでこれから先、一人でも大丈夫だ。
「ルーファスの噂はきみも知ってるだろう。そんな時に学園を退学すれば、噂は本当だったと生徒たちは確信してしまう」
「そ、それは……」
「それにルーファスはわたしの婚約者だ。きみにあげることは出来ないよ」
「っ! そ、そんなのわかってます。僕が欲しがることすら烏滸がましい方だってことくらい。ルーファスの噂は僕が絶対に消してみせます。本当のルーファスは悪役令息なんかじゃない。優しくて公平で、素敵な人だから。……ローラント第三王子殿下、僕が言うことじゃないけど、ルーファスを幸せにしてください。遠くから、ずっと遠くから、二人の幸せを祈ってます」
絶対にルーファスの悪い噂を全て払拭してやる。それくらいしか僕にできる事はない。そして、全て終わったら僕はルーファスの前から去るのだ。王子と結婚するのを見るのも、ルーファスが恋している相手と想いを交わすのを見るのも、僕には我慢できそうもない。
我儘を言ってルーファスを困らせてしまうだろう。僕は、ゆっくりと立ち上がり、王子と幼なじみたちに向かって深く礼をする。
そして踵を返すと、いつもの渡り廊下を渡って、寮に戻るべく歩いたのだった。
***
サッシャがいなくなった東屋は大騒ぎだった。
「ど、どどどど、どうしよう、ローラント。ルーファスが泣く」
リースがオロオロとしながらそう言えば、アンドリューは唇を尖らせて不機嫌に言い放つ。
「あんなやつ早く忘れた方がいいんだよ。なんだよあいつ、ルーファスが優しいのをいいことに、悪役令息なんて役をやらせるなんて最低だ!」
「でもあのルーファスだぜ?」
「ええ、ルーファスが納得しなければ、一ミリも動かないのはあなたも知っているでしょう、アンドリュー」
「それじゃあ、ルーファスは納得してあの子の言うままに悪役令息なんて役柄を請け負ったって言うわけ?」
「そうじゃなきゃ、ルーファスがやるわけないじゃん」
「アンドリュー、許してあげて。きっとルーファスにも何か考えがあったんだよ。恋は盲目って言うしね。でも、サッシャ君の覚悟もわかったし、噂の火消しをしたら穏便に婚約解消に向けて動かないとね」
「ローラント! ルーファスをあんな毒婦にあげちゃうつもり!? さっきはあげないって言ってたじゃん!」
「もちろん、ルーファスが婚約解消を望めばね」
「俺は反対、絶対、大反対!」
手をあげて反対だと声を上げるアンドリューに、タルベットは手を伸ばして落ち着かせるように肩に置く。
「落ち着けアンドリュー、ルーファスとローラントが決めることだ」
「やだ! 落ち着かない! 絶対に認めないったら認めない!」
暴れ始めてしまったアンドリューとリースと二人で押さえると、ローラントに顔を向けた。
「恋ってままならないって心底思ったよ。わたしはいいかな……。ちゃんと恋してるアンドリューがものすごく大人で、ものすごく立派に思えてきた」
「お、俺は……」
暴れるのをやめたアンドリューに、ローラントは優しく声をかけた。
「さあ、今日はもう閉会にして帰ろうか。なんだか疲れてしまったよ」
ルーファスを焚き付けてからのサッシャの激白に、どうしていいのかわからない。もっとちゃんと考えなければならないが、今はただ落ち着いた部屋に戻って、お茶でも飲みたかった。
「さて、帰ろうか」
そう声をかけて鞄を取ろうとした時、真っ白な封筒が一通その上に乗っていたのだった。
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