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第16話

『結構好評なんだよね、オメガさんの見ちゃ嫌シリーズ』  誘発剤を飲まされて、1人ベッドの上で乱れた後は、酷く身体が重たい。自分の両手首に手錠がかけられる様をぼんやりと見ていた。裸の男の人が近づいてくる。まだ、思考回路は働かない。 『で、絡みが見たいっていう希望が多いからさ、頼むよ』  我に返ったのは、その男の人がベッドに乗り上げてからだった。突然、後ろに指が張り込んできた。首を振り、身をよじり、後ずさりをしたら、ベッドから落ちた。後ろ頭を強く打ち、視界がぐらぐらする。吐き気がした。 『別に、初めてじゃないでしょ。これまでと変わらないか、それよりも気持ちよくしてやるって』  ジー……、低い、機械が動く音が聞こえてくる。すっかり聞き慣れてしまったビデオカメラの回る音だ。撮られている。  ベッドの上から手が伸びてきて、髪を掴まれた。胸のあたりがきゅうと痛くなり、胃内のものが逆流する。薄い黄色の透明な水だった。 『汚ねっ。ああ、もう今日はいいや。一旦休憩』  舌打ちとともに手が離され、男の人達の気配が遠のく。そのまま、遠のく意識を叱りつけた。手が震えている。それとともにカチャカチャと鎖が音を立てている。  幸いにも手錠は玩具のようで、サイズは僕の手首より大きかった。掌を丸め、何度も引っかかりながら、そこから手を抜くことができた。  灯りの消えた部屋の中、立ち上がり、服と鞄を手に駆けだした。最近は帰ることも許されず、ずっとここの、主にベッドの上で過ごしていたせいで、足がおかしい。よたよたと壁伝いに、けれど、急いで部屋を離れた。  僕はきっと、彼らにいいように遊ばれて、そうして終わるのだろう。それは、もういい。 『神様、神様』  祈りながら、携帯へ文字を打つ。  最後に謝りたい、最後にお礼を言いたい。  最後に、会いたい。  夜遅かったにも関わらず、すぐに返信があった。 『俺も会いたい』  冷たい画面の上に、涙が落ちた。  ***  陽色くんは、じっと僕の方を見据えた後、大きなため息を吐いた。これまで見たこともないくらい怒ってる。怖い。当然だ。 「ごめ、んなさい。時間、使わせちゃって。僕、もう帰る、ね。あの、本当に今日はありがと、っ」  腰を浮かせた瞬間、テーブルの上の手首が掴まれ、痛みが走る。それと同時にひやりとしたものが肌にくっつき、鳥肌が立った。見れば、安物の手袋の上、少しだけ血が染みている。止まってなかったんだ。 「あ、汚れる、からっ」  手を引きながら、もう一方の手でおしぼりととる。陽色くんは黙ったまま、ゆっくり手袋をめくりはじめた。きれいな指に汚い血がついている。 「陽色くん!」  手袋がとられた。無我夢中で手錠から手を抜くときにできた傷は思っていたよりも深くて、けれどそのほとんどはもう出てきた血液ごと乾燥していた。だから油断した。 「ごめ」 「こんなときまで、俺の心配ですか」 「手、離して、拭いて」 「嫌です。離しません。座って下さい」  座るから、離して。  頷きながら椅子に腰を落ち着けると、ようやく陽色くんは手を離してくれた。夢中で、その指の汚れを拭く。 「ごめん。ごめんね」  その手を、また、陽色くんが握った。 「春さん、『オメガ』なんでしょ」

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