fujossyは18歳以上の方を対象とした、無料のBL作品投稿サイトです。
私は18歳以上です
花神回天庭〜かつて天界を追放された花神が再び天に還るまで〜 三十、いつも、ありがとうございます。 | 柚月なぎの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
花神回天庭〜かつて天界を追...
三十、いつも、ありがとうございます。
作者:
柚月なぎ
ビューワー設定
30 / 44
三十、いつも、ありがとうございます。
櫻花
(
インホア
)
がもう一度あの村に行きたいと言うので、仕方なく
肖月
(
シャオユエ
)
は頷いた。本当は連れて行きたくなかったが、あのまま骸を放置することを
櫻花
(
インホア
)
は望まなかった。 「あの時、できなかったから、」 と、悲し気に言われてしまったら、誰も駄目だとは言えないだろう。 昨日降った雪で、骸も、それを染めている赤も覆われていて、それでも飛び散った肉片や血飛沫は隠せない。悲痛に歪んだ顔も、まるでこちらを見て怯えているかのようだ。 凝固している骸に触れようとしたその時、ふたつの光の玉が、突如目の前に現れた。それは弾け飛ぶように強烈な光を放つと、人の形を成した。 「俺たちが追ってる奴が関わってるかもしれないっていうのは、今回こそはどうやら本当らしいな!」 「うるさい、黙って」 黒装束を纏った青年と、白装束を纏った少年が、骸を避けるように地面に降り立つ。 姿を取るなり騒ぎ立てる黒装束の青年に、間髪入れずに白装束の少年が牽制する。青年に対して少年は頭ふたつ分は背が低く、その表情も真逆だ。 「誰? この
分身
(
ひと
)
たち」 地面に膝を付いていた
櫻花
(
インホア
)
の腕を引いて、自分の後ろに立たせる。
肖月
(
シャオユエ
)
は怪訝そうに、目の前に現れた怪しい分身を見据えた。本当は予想は付いていたが、わざとそんな言い方をしてみせる。 「
白藍
(
パイラン
)
、お久しぶりです。ついでに
黑藍
(
ヘイラン
)
も」 少年にはいつも通りの
櫻花
(
インホア
)
だったが、青年に対しては珍しく嫌そうな顔をして頬を膨らませて言う。青年もむっと不機嫌になって、腰に手を当ててふんと鼻を鳴らした。 「なんであんたがここに? 悲惨な姿の骸を眺める趣味でもあるのかよ」 「
黑藍
(
ヘイラン
)
、黙れって言ったよね?」 「なんでお前に指図されないといけないんだ? 俺がお前になにかしたか? 別になんにもしてないだろう? その前に突っ込むところがあるだろうがっ」
黑藍
(
ヘイラン
)
は、
櫻花
(
インホア
)
を隠すように立つ
肖月
(
シャオユエ
)
を指差して、言い放つ。 「こいつ、化身だぞ。なんで精霊が地仙と一緒にいるんだよ」 「あんたには関係のないことだよ、」 「こいつ、今、俺の事
あんた
(
・・・
)
って言ったか!? この俺を誰だと思って、」 「品行が最低最悪の、黒竜様だろ?」 「どうやら死にたいようだな、」 ふたりが睨み合う中、
櫻花
(
インホア
)
は音もなく横にやって来た
白藍
(
パイラン
)
に、袖をくいと引かれる。その小さな子供のような仕草に、
櫻花
(
インホア
)
は花が咲いたように明るい表情を浮かべた。 無表情だが、秀麗で美しい少年を見下ろし、思わず同じ目線まで腰を屈める。肩までの綺麗に切り揃えられた白髪と、瑪瑙色の瞳が特徴的な
白藍
(
パイラン
)
は、四竜のひとり、白竜である。 「
櫻花
(
インホア
)
、君がここにいると聞いて、飛んで来た。こんな所にいて平気?」 「はい。昨日は不甲斐なくも倒れてしまったんですが、もう、大丈夫です。
肖月
(
シャオユエ
)
のお陰で、気持ちが楽になりました」
白藍
(
パイラン
)
の眉が一瞬ぴくっと動いたが、
櫻花
(
インホア
)
が気付くことはない。後ろでは
肖月
(
シャオユエ
)
が、あの時のことを嫌みを込めて蒸し返していた。それに対して
黑藍
(
ヘイラン
)
はいつもの如く、俺は悪くないと言い切っている。 「あの化身、まだ君に付きまとってるの? 君、僕たちにはひとりが好きとか言っておいて、結局そこの化身に絆されちゃったの?」 抑揚のない声だが、畳みかけるように問いかけてくる。ええっと、と
櫻花
(
インホア
)
は言いにくそうに苦笑を浮かべた。 「それは······色々と、その、ありましてですね、ええっと、」 「色々ってなに?」 普段無口なのに、どうして今日に限って······と
櫻花
(
インホア
)
は返答に困る。まさか、唇を奪われたばかりか、身も心も奪われてしまったとは言えない。 「契約をしまして······私が天仙になる手助けをしてくれるそうです」 「別に、君は手助けなんてなくても、天仙にくらい簡単になれるでしょ?」 数年前に
紅藍
(
ホンラン
)
や
蒼藍
(
ツァンラン
)
に言われたことを、同じように言われ、
櫻花
(
インホア
)
は言葉に詰まる。 「······あまりそこは触れないでください」 本当に困った顔をして、謝って来る
櫻花
(
インホア
)
に、はあと嘆息して
白藍
(
パイラン
)
が肩を竦める。 (ホントは、
紅藍
(
ホンラン
)
がペラペラと訊いてないことも勝手に喋ってくれたから、全部、知ってるんだけど) こっちこそごめんね、と
白藍
(
パイラン
)
は白装束の袖に右手を入れ、何かを取り出す素振りをした。 屈んでいた
櫻花
(
インホア
)
は、気付けば跪くように雪の上に座り込み、すみません、ごめんなさい、と何度も頭を下げていた。 その頭が止まった時、
白藍
(
パイラン
)
は
櫻花
(
インホア
)
の結い上げている髪の毛の、その左側になにかを押し込んだ。 「あげる」 目を細めて、
白藍
(
パイラン
)
は見下ろすように短く、わざと素っ気ない感じで言い放つ。
櫻花
(
インホア
)
の髪の毛に飾られたのは、黄色い花びらを付けた
蝋梅
(
ろうばい
)
であった。 真冬に花開く、梅に似たその黄色い花は、
櫻花
(
インホア
)
の髪に飾られてもなお、仄かに甘い香りが漂う。 「いつも、ありがとうございます」 そのやりとりに、
肖月
(
シャオユエ
)
ばかりでなく、
黑藍
(
ヘイラン
)
までもがすごい顔でこちらを見てきた。 「はあ? お前、いつもそんなことやってんの!? いや、お前らのそいつに対する過剰な庇護欲は、一体何なんだっ!」 「は? 君のせいで
櫻花
(
インホア
)
は、なりたくもない天仙にならなきゃいけなくなったんだろう? 行きたくもない天界に行かされる、彼の身にもなりなよ。ホント、馬鹿なの? さっさと土下座して呪い解きなよ」 「それは、こいつがすることで、俺がすることじゃない! それに謝れば赦すって言ってやってんのに、いつまでも意地を張ってるこいつが馬鹿なんだっ」 途端、
櫻花
(
インホア
)
以外のふたりが、揃って
黑藍
(
ヘイラン
)
を憐れな眼で見据える。 前に、
櫻花
(
インホア
)
が言っていたこと。 今の
黑藍
(
ヘイラン
)
は、ある意味、流転したて(といっても百年以上は経っている)の黒竜で、過去の記憶も無くなっているらしい。 しかも、誰もそれを教えていないので、本人はまったく気付いていないらしい。つまり、その前の自分が他の四竜と同じく、櫻花を庇護していた過去さえ憶えていないのだ。 (なんだか面倒なひとだな····一回死んで流転する前、自分も同じことしてたってこと、誰か教えてあげなよ、俺は嫌だけど) (······それ、
櫻花
(
インホア
)
から聞いたの? でも言ったら彼、舌噛んで死ぬかもね。なんだかんだで
黑藍
(
ヘイラン
)
が一番、
櫻花
(
インホア
)
のこと大事にしてたんだから、) こそこそと
肖月
(
シャオユエ
)
と
白藍
(
パイラン
)
が囁き合う。 ふたりの可哀想なものでも見るような表情に、
黑藍
(
ヘイラン
)
はまるで自分が間違っているかのような気持ちになるが、その手にはのらない! 「あ、あのぉ······? ふたりとも、そのくらいに、」 当の本人はまったく気にしておらず、へらへらと笑って間に入って来る。 そんな
櫻花
(
インホア
)
の前に
肖月
(
シャオユエ
)
は立ち塞がり、悪戯っぽい表情を浮かべたと思えば、口元に人差し指を立てて「しー」と音を立てる。 「喚いてる暇があるなら、さっさとこの惨劇を起こした犯人でも捕まえてきなよ」 「言われなくてもそのつもりだ!」 「
黑藍
(
ヘイラン
)
、うるさい」 三人はそれぞれお互いに牽制しながら、最後にはふんと同時に顔を背ける。
櫻花
(
インホア
)
はやれやれと頬を掻き、はあと大きくため息を吐き出すのだった。
前へ
30 / 44
次へ
ともだちにシェアしよう!
ツイート
柚月なぎ
ログイン
しおり一覧