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鳥の魔物は全く怯む様子がなかった。
体勢を立て直し、僕の心臓を狙うかのように一直線に飛んでくる。
寸前のところで避け、僕は鳥の魔物に火球をぶつけた。威嚇とは比べものにならない威力のものだ。
「――っ!」
しかし、鳥の魔物は火球を潜り抜けてきた。
僕のほうにまっすぐに飛んでくる。接近戦は苦手というか、やったことがない。
「ジェリー!」
後ろから名前を呼ばれた。瞬間、キリアンさんが僕のほうに飛んでくる。
彼はその剣先で鳥の魔物の核となる部分を貫こうとする。もちろん魔物だってバカではないので、身を引いて剣を避けた。
「キリアンさん!」
彼の左肩には深い傷があるみたいだった。衣服にべっとりとおびただしい量の血がにじんでいる。
深い傷を負った状態で動くのは絶対にダメだ。
「キリアンさん! 休んでてください。この魔物は僕が――」
せめて、一体くらいは倒さなくちゃ――!
僕の気持ちなど知りもしないキリアンさんは、「うるさい!」と叫ぶ。
反射的に身を縮めた。
「これは俺が自己満足でやっていることだ。お前のためじゃない!」
きっと、彼の心の底からの叫び。ただ、僕には彼の悲鳴に聞こえてしまう。
(苦しいって、言ってるみたい)
意識がキリアンさんのほうに向きかけて、僕は首を横に振る。今はこの状況をなんとかするほうが先決だ。
なにかヒントはないか。僕は周囲を冷静に観察する。
(全部がおかしい。大体ここら辺はまだ安全地帯。……魔物が現れること自体がまれだし、こんなに強い存在なんていないはず)
これが魔物が活性化しているということなのだろうか?
ううん、今はこんなことを考えている場合じゃない。
(あんまり、やっちゃダメだけど……)
師匠はいつも僕にくぎを刺していた。
『キミが本気を出すと、大変なことになるだろう。私からの忠告だ。キミは決して人前で全力を出してはならない』
師匠の言いつけは僕にとって絶対だ。でも、この場合では仕方がないだろう。
僕が周囲に漂う魔力の量を増やそうとしたとき、不意に気が付いた。
(魔物の核が、光ってる――?)
魔物の核とは、いわば人間の心臓。あれがあるからこそ、魔物は動き考えることが出来る。
核が光条件はいくつかあると言われている。そして、もっとも多いとされている理由が――強化魔法がかかっているということ。
「キリアンさん! 伏せてください!」
大きな声で叫ぶと、キリアンさんが驚いたように僕を見て、すぐに伏せた。
「――状態解除――」
小さくつぶやき、光の玉を魔物に飛ばす。
身をひるがえし、四足歩行の魔物にも同じものをかけた。
「キリアンさん! エカードさん! 今なら、攻撃が効くはずです!」
腹の底からの大きな声で叫んだ。二人は僕に視線を一瞬だけ向ける。
信じたのかはわからない。物は試しとばかりだったのかもしれない。
二人は魔物に切りかかる。魔物たちは先ほどまでの素早い動きが嘘だったかのように、鈍い動きで逃げ出そうとした。
「――はっ!」
だからって、逃げることが出来るわけがない。
二人は勇者と剣士に選ばれているほどの確かな実力者だ。
「――強化」
遠くから二人に強化魔法をかけ、魔物を倒す後押しをする。
(一体、二体。あと、三体!)
次から次へと剣を突き立てられていく魔物たち。残った核に手早く魔法をかけた。もちろん、今後復活することが出来ないように。
(幸いにも、僕には多少の聖なる力がある)
本当に微々たるもので、弱っている魔物にしか効果はないけど。
声をかけようとキリアンさんのほうを見て、僕は気が付いた。彼の左肩から出ている血が、増えていることに。
(あのままだったら!)
――助からない。
嫌な予感が脳内をかすめ、僕はキリアンさんを止めるために声をかけようとして。
彼の目が血走っているのに気が付いてしまった。僕の喉がごくりと鳴って、なにも言えなくなる。
(まるで、憎しみがこもっているみたいっだ)
心の底からのあふれんばかりの憎しみを、魔物にぶつけているかのようだった。
僕みたいな存在に止めることは許されない。
そう錯覚してしまいそうなほどの迫力。魔物も怯み、キリアンさんを怖がっている。
「おい、キリアン!」
エカードさんもキリアンさんのただならぬ様子に気が付いたらしい。声をかけた。
(ダメ、ダメだって!)
キリアンさんは止まることなく、魔物たちを消滅に追い込んでいく。
痛みも辛さもちっとも感じていない。鮮やかな動きに僕は見惚れてしまう。
不謹慎なのはわかっていた。
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