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 その後、僕たちは夕食を摂って、予約していた宿屋に戻った――のだけど。  そこで、ちょっとしたトラブルが起きていた。 「キリアン、ジェリー、ちょっと来てくれ」  受付の前に立っていたエカードさんが、戻って来た僕たちを見て手招きをする。  キリアンと僕は一度顔を見合わせて、エカードさんのほうに向かった。 「なにか、あったんですか――?」  僕が尋ねると、受付の女性が深々と頭を下げた。 「申し訳ございません――!」  突然謝罪をされて、僕はぽかんとすることしか出来ない。  僕の様子を見て、エカードさんが髪の毛をガシガシと掻いて訳を教えてくれた。  どうやら宿屋側の手違いで、お部屋が二つしか予約できていなかったらしい。 「しかも、この時期は観光にぴったりだとかで、宿の部屋に空きがないらしい。ほかの宿も似たようなものだな」  確かに、観光客はとっても多かったもんね。  と、一人納得する僕だけど、これはある意味大事件じゃないだろうか? (これってもしかして、一人は野宿――?)  嫌な想像をしたせいで、顔からサーっと血の気が引くような感覚に襲われた。  けど、僕の態度を見たキリアンが頭を小突く。 「誰かが相部屋になればいいだろ。寝台とかは、運んでくれるんだよな?」 「も、もちろんでございます!」  受付の人がキリアンの問いかけに首を縦に振り続ける。 「というわけらしい。俺とジェリーが相部屋になる」 「ほぇ?」  だけど、いきなりの言葉に僕は口を開けて固まってしまう。  え、キリアン。今、なんて言った――? 「あ、あの、キリアン?」  僕がキリアンの服の袖をつかむと、彼は僕に視線を向ける。いや、この場合見下ろしているといったほうが正しいのかもしれない。 「俺はエカードと相部屋なんて絶対に嫌だからな」 「あ、そう、なんだ」  あまりにも当然のように言われたから、僕は納得するしか出来なかった。 「かといって、ジェリーとエカードを一緒にするわけにはいかない。つまり、妥協案だ」 「――妥協案」  まぁ、僕もエカードさんと相部屋よりは、キリアンと相部屋のほうがいいかな。だって、まだ気心をが知れているから。 「というわけで、そうする。エカードは一人で悠々自適に部屋を使え」  キリアンは言葉を残して、受付の人から部屋の鍵をもらい、宿泊フロアのほうへと歩き始めた。  僕とエカードさんはなにも言わずに彼を見送ることしか出来ない。 (キリアン、気を遣ってくれたのかな?)  誰だって一人部屋になりたいと思うはずだ。なのに、僕と相部屋でいいなんて。 「――おい、ジェリー」  不意にエカードさんに声をかけられた。僕が彼に視線を向けると、彼は「あー」と声を上げていた。なにが言いたいんだろうか? 「こういうときな、真っ先に一人部屋を選ぶのがキリアンだよ」 「はぇ?」  エカードさんの言っていることの意味がすぐには分からなかった。 「なのに、どういう風の吹き回しなんだろうな。まさか、相部屋が良いなんて――」 「え、えっと」  もしかしたらエカードさんは勘違いをしているのかもしれない。キリアンは僕に気を遣ってくれただけなんだ。 「僕に気を遣ってくれたんじゃ、ないですかね?」  小さな声で言うと、エカードさんが僕のことをじっと見つめる。  彼は納得が出来ていないみたいだった。 「それだけだったら、いいんだけどな。――ま、気を付けろよ」 「気を付ける?」 「アイツに襲われないようにってこと」  エカードさんの突拍子もない言葉に僕はせき込んだ。  襲われる? この僕が? (ないないない!)  すぐに否定したけど、昼間にキリアンに口づけをされたことを思い出した。  顔に一瞬で熱が溜まる。 (襲うとか、そういうのは……違う、はず)  うん、そうだ。自分自身に必死に言い聞かせて、僕は部屋番号を聞いてキリアンの後を追うことにした。  顔はずっと熱くて、火照っていた。

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