34 / 45

4-4

「――と、いうわけで。僕の役割はわかってもらえただろう。そして、僕は今からしばらくキリアンたちと行動を共にする」  シデリス殿下は表情を崩さずに、はっきりと言いきった。  ――共に行動。それって伝達係の意味はなくないだろうか? 「伝達係とはいっても、僕がするのは父上からの伝言が主だ。クレメンスのやつは、僕が間に入った以上慎重になるはずだからね」  僕に向かってウィンクを飛ばすシデリス殿下。それはきっと、「いいよね?」という意味なんだろう。  僕のような存在が断れるわけがないというのに。 「ぼ、僕的には――その」  正直、シデリス殿下と行動を共にするなんて、恐れ多くて気絶しそうだ。  あと、純粋にかなり緊張してしまいそうだった。僕の心臓が今でさえバクバクとしているのだから。  エカードさんに助けを求めるように彼にもう一度視線を向けると、彼はいかにも「お手上げだ」とばかりに両手を挙げていた。  全然役に立ってくれない。 (っていうか、こういう場を取り仕切るのはキリアンの役目――)  僕とエカードさんはあくまでもお供だ。仕切るのはキリアンの役目だと思う。  だから、キリアンがどういう風に出るのか。それが大事なんだけど……。 「別にいいぞ」  彼は悩む間もなく、シデリス殿下の無茶ぶりを受け入れた。 「ふぅん、キミにしては珍しい」 「お前はいつだって駄々をこねるからな。面倒なことは避けたい。それに、お前は戦えるだろ」 「まぁね」  自信満々とばかりににんまりと笑うシデリス殿下。 「ご存じの通り、僕の母上は騎士の家系の出身でね。子供のころから鍛え上げられてきたさ」 「というわけだ。お荷物になる可能性は低いだろ」  キリアンの言葉の節々には、確かな信頼がこもっている。  キリアンはシデリス殿下をなんだかんだ言いつつも信頼している。昨夜も思ったけど、その信頼に間違いはない。口では散々なことを言っているけどさ。 「俺はキリアンが許可を出すならば全然いいぞ」  エカードさんがキリアンを一瞥して、言い切った。  残るのは僕の意見――なんだけど。 「僕は全部任せる――よ」  僕の意思なんてあってないようなものだろう。  それがよくわかるから、僕は首を縦に振って答える。 「じゃあ、そういうことで僕も同行しよう。お荷物にもお邪魔にもならないように気を付けるから、安心してくれたまえ」 「お前の存在自体が鬱陶しいけどな」 「まったく、キリアンは素直じゃない。さっきは僕の言葉を受け入れてくれたというのに」 「お前が鬱陶しいからだろ。面倒ごとは避けたいと言ったはずだ。――ジェリーとの間を邪魔したら、許さない」  側で繰り広げられていく、幼馴染二人の軽口。  僕は彼らの言葉を聞くたびに、心がきゅうっと締め付けられるような感覚に襲われていた。 (どうして、こう思うんだろ……)  これは王子殿下が同行することに対する不安? 不満?  いや、ちょっと違う。たとえシデリス殿下が王族ではなかったとしても。  ――キリアンと親しくしているのに、モヤモヤとしてしまうだろう。  僕にはキリアンしか友人がいないのに。一番の友人を横から掻っ攫われたみたいだ。  今僕が抱いている気持ちは、それで説明がつくような気がした。 (心の狭い男になっちゃダメだ。僕だって交友関係を広げればいい)  ほかにも友人が出来たら、僕のキリアンに対する依存心にも似た感情を昇華できるはず。  このときの僕は間違いなくそう思っていた。  ――キリアンの本当の気持ちなんて、少しも知らずに。

ともだちにシェアしよう!