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 ◇◇◇ 「ジェリー、こんなものだろ」  キリアンが近くの川で魚を調達してきてくれた。 「あと、食べられそうな野草とか採ってきた」  ついでとばかりに出された野草は、誰もが知っている食べられる野草。  僕はぎこちない笑みを浮かべて、「ありがとう」と言う。 (巻き込んじゃったのに……)  あのワープホールをくぐった先は、空中だった。  このまま落ちちゃうと死んじゃう――と思った僕は、咄嗟に魔法を使って落下の衝撃を抑えた。  ついでに落下の方向を変え、近くにあった大きな川に落ちることに成功したのだ。  まぁ、おかげで衣服はびしょ濡れなんだけど。  川から上がった僕とキリアンが辺りを見渡したところ、ここは森の中のようで。  移動しようとしたけど、雨がぽつりぽつりと降り出したこと。日が落ちて来たことから、今日はここで野宿をすることに。  幸いにも近くに小さな洞窟があったので、僕たちはそこで一夜を明かすことにした。 「食料とか、少しくらい俺たちも持っておくべきだったな」  キリアンが調達した魚や野草を眺めつつ、ぼやいた。僕はうなずくことしか出来ない。  食料はエカードさんが全部持ってくれていた。そのせいで、僕たちは今、食べるものにも困っていて。結果、川魚でも採ってこようという話になったというわけ。  キリアンが食料を調達してくれている間、僕はびしょ濡れになった衣服を乾かす係をしていた。  魔法使いだから、食料調達の役には立たなかったというのもある。 「とりあえず、火を通すね」  僕は火の魔法を使って、川魚に軽く火を通した。  野草は生で食べられるものはそのまま。キノコや生で食べられない野草は火を通すことに。  一通り火が通ったのを確認していると、キリアンが乾かしていた衣服を身にまとった。そう、この人、先ほどまで上半身裸だったのだ。おかげで僕はすごく目のやり場に困っていた。  未だに落ち込んでいる僕を見て、キリアンが「食べるか」と声をかけてくれる。僕はなにも言わずにうなずいた。  火を通した川魚は全部で四匹。キリアンは二匹ずつ食べることを想定しているんだろうな。 「……あのね。一応寝床は整えたから」  視線を洞窟の端っこに向けて、僕は言う。  寝床と言っても、近くにあった葉っぱとか、たまたま持っていたタオルとかを組み合わせた簡易のものだ。  作った理由は衣服を乾かしているだけだと、暇だったというのもある。 「そうか、ありがと」  キリアンは嫌味なく言って、川魚をかじる。僕は膝を抱えて、川魚を少しだけかじった。 「その、ごめんね……」  ようやく、言わなくちゃいけないことを口にできた。 「は?」  キリアンが怪訝そうに声を上げる。僕はさらに身を縮める。 「僕に巻き込んだみたいに、なっちゃったでしょ?」  目もぎゅっとつむって、続ける。  あれだと、どう考えても狙われたのは僕だった。なのに、キリアンまで巻き込まれちゃって――。 「ずっと、申し訳ないなって、思ってたんだ」  衣服を乾かしている間も、寝床を整えている間も。僕はずっとずっと申し訳なく思っていた。消えたくてたまらなかった。  僕だけが転移すればよかったのに――って。 「あぁ、そのことか」  僕の言葉を聞いたキリアンが声を上げる。彼は川魚を一匹食べ終えると、僕のほうに寄ってくる。  そして、僕の身体に自身の身体を寄せた。 「別に気にしていない。――というか、俺が好きでしたことだろ」 「……でも」 「でもとか言うな」  キリアンが僕の口に野草を押し込んだ。僕が驚いていると、キリアンは笑った。  まるで悪戯が成功した子供のような、無邪気な笑みだ。 「とりあえず、食え。食ったら、些細なことなんてどうでもよくなるだろ」  ――これは絶対に、些細なことなんかじゃない。  僕は言おうとしたけど、キリアンが気を遣ってくれているのはよくわかったから。  うなずいて、僕はもう一口川魚をかじった。味付けなんてしていないのに、案外美味しいなって思った。

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