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「お前は本当にあんまり食べないんだな」  僕の食事を見たキリアンが、言葉を漏らす。僕はあいまいに笑った。 「小食……ってわけじゃ、ないと思うんだけど」  それに、この状況下だから食欲がないというのもある。  本当、申し訳なくてたまらないのだ。  ちらりとキリアンのほうを見た。キリアンは焼いたキノコをつついている。  そして、つつかれているキノコを見て僕はハッとした。 「キリアン、そのキノコ頂戴」 「あ、あぁ」  僕はキリアンからキノコを奪って、口の中に入れる。口の中いっぱいに広がる苦み。  やっぱりこれ、毒キノコだ。 (見た目は普通のキノコだから、間違えちゃう人が多いんだよね……)  このキノコを間違えて食べて、お腹を壊す人はかなり多い。  少量のエキスだけでお腹を壊しちゃうから、口の中にちょっとした汁も残しちゃダメなんだよね。  なんてことを考えつつ、僕はキノコを呑み込む。 「ジェリーはキノコが好きなのか?」  キリアンが問いかけてくる。対する僕は首を横に振った。 「これね、毒キノコなの」  当然のように言うと、キリアンが慌てた。  そりゃあ、毒キノコを食べたって知ったら、慌てるか。 「大丈夫だよ。もったいないから食べただけだし」 「そういう問題じゃないだろ――!」  僕の口の中に手を突っ込もうとするから、急いで「大丈夫だから!」とキリアンに伝える。 「僕、体質的に毒とか効かないの」 「――は?」 「だから、僕は毒が効かない体質なの!」  繰り返すと、キリアンが疑うような視線を僕に向けてきた。  けど、僕はこの身体と二十年以上付き合っている。自分の身体のことは、自分が一番よくわかっているつもりだ。 「理由はわからないけど、僕、痛んだものとかも全然平気なんだ」  体質に気が付いたのは偶然だった。  兄さんたちに物置に閉じ込められて。長時間だったから空腹に耐えることが出来なかった。当時の僕は仕方がなくそこにあったかびたパンを恐る恐る口にしたのだ。 (それからも毒のあるものとか、痛んだものとかを食べたのに僕は全然体調を崩さなくて――)  兄さんたちが僕を疎むのは、きっとそういう不気味さがあるからなんだとも思う。  僕だってもし他人が「毒が効かない体質」だってカミングアウトしたら驚く。しかも、生まれながらなんて普通の人間じゃありえない。 「だから、大丈夫なんだよ」  笑って伝えると、キリアンはなんだか苦しそうな表情をしていた。  しばらくして、現実に戻ってきたみたいに「かといって」と言う。 「身体がダメージを負わないわけがないだろ。今後、そういう無茶は控えろ」  キリアンは心配そうに言う。――言って、くれた。 (今までそこまで言ってくれる人、師匠以外いなかったなぁ――)  ほかの人たちは僕の体質を不気味がるばかりだった。師匠だけが、僕の体質を知っても普通に接してくれた。  キリアンも、師匠と一緒なんだね。 「――ありがとう」  口からお礼の言葉がこぼれた。キリアンは驚愕の表情を浮かべるものの、少しして僕から視線を外す。 「あぁ」  彼が頬をぽりぽりと掻く。 「俺はジェリーが苦しむのは見たくないんだ」  キリアンは当然だと言いたげだった。……それは僕のセリフでもあるんだけど。 「僕も、キリアンが苦しむのは見たくないよ。――だから、一緒」  キリアンは自己犠牲の塊だ。どうしてそんなことになったのかはわからないけど、なんらかの理由はあるんだろう。 「ジェリー」 「一緒に無茶をしないように、気を付けようね」  膝を抱きかかえて自分の気持ちを口にすると、キリアンは視線を逸らし――首を縦に振ってくれた。  こうして、僕とキリアンの野宿の夜は更けていく。  そして、後は眠るだけ――となったときのこと。  僕は身体を硬くしていた。

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