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一時間後。僕は店主さんから教えてもらった場所に来ていた。
意を決して、敷地に入る。石に刻まれた名前を眺めつつ、僕はゆっくり歩いた。
この場所は手入れが行き届いていて、とても歩きやすい。きっと、頻繁に人が来ているのだ。
「……ここに眠る人たちは、愛されていたんだよね」
どの石も丁寧に手入れがしてある。亡くなってもなお、人に愛されている。僕とは大違いだ。
(僕が死んでも、ここまで大切にされることはないんだろうなぁ)
というか、悲しんでくれる人がいるのかもわからない。
師匠は悲しんでくれるかな。あと――キリアンも。
などと考えつつ歩いていると、一つの石の前に男の人が立っていた。
男の人は優しい手つきで石を撫でている。まるで、いつくしむように。
迷ったけど、僕は男の人のほうに近づいた。彼が振り向いて――僕と視線が絡み合う。
「――ジェリー」
彼が僕の名前を呼んだ。
真っ赤な双眸が、僕を射抜く。僕の唇は勝手に名前をつむいでいた。
「トリスタンさん」
花束を抱きしめる。トリスタンさんは、返事をくれない。僕をじっと見つめるだけだ。
「……墓参りか」
トリスタンさんの視線が、僕が抱きかかえる花束に移った。
静かにうなずく。
「そうか。……よかったな。ようやく会えたぞ」
彼が墓石に向かって声をかけた。
僕はなにも言わずに、トリスタンさんの隣に移動する。そして、花束を墓石の前に置いた。
「ここは、クラーラさんととある男の人のお墓だそうです」
店主さんのお話では、このお墓はクラーラさんがいなくなって三年後に作られたものらしい。
感謝の意味を込めているのだと、教えてもらった。
「お墓を作ることで、彼女が帰ってこないと理解しようとしたみたいです」
それだけクラーラさんは慕われていた。
あと、これは僕の推測でしかないけど。……クラーラさんは、僕の本当のお母さんだ。
「トリスタンさんは、どうしてここに?」
視線は墓石に向けたまま、聞いてみる。
無言が場を支配する。しばらくして、トリスタンさんは手を伸ばし――墓石に触れた。
「ここは私の弟の墓でもあるんだ」
彼の指が、クラーラさんの隣に刻まれた名前に触れた。
「私にはラモントという弟がいた。あいつには魔族としての生き方が合わなかったんだ。先代の魔王である父とはよく衝突していてな。ある日、ついに我慢ならなくて飛び出した」
「……はい」
「だが、あるとき突然あいつは戻ってきた。そして、人間の女と添い遂げるなどと言い出したんだ」
多分、その人間の女の人がクラーラさん。だから、トリスタンさんの弟さんが、僕のお父さん。
「父は魔族としての誇りが高い人でな。ラモントが人間を愛したことが許せなかった。父はラモントを殺した」
「……っ」
「あいつも頭のどこかでそうなることをわかっていたんだろうな。でも、愛した女と子供を守りたかった。……父は自分を殺したら、きっと子供や愛した人には手を出さない――と、信じていたんだ」
僕はなにも返せなかった。目を伏せて、じっと地面の雑草を見つめる。
「ある意味あいつの予想通りだった。父は自分の息子を殺したことに心を病み、すぐに隠居した。もう、あいつの愛した女性や子供のことなんてどうでもよかったんだろう。なのに、不幸なものだ。あいつの愛した女性は産後すぐに病魔に侵された。そのままこの世を去ってしまったのだからな」
……そっか。
「私は悔いたよ。どうしてあのときラモントの味方をしなかったんだろう――と」
トリスタンさんが唇を噛んだのがわかった。僕はなにも言わなかった。
「ラモントは人間と魔族が共存する世界を望んでいた。……私にできるのは、その理想を叶えることだけだ」
立ち上がり、トリスタンさんが僕を見下ろす。目元が緩んだ、優しい表情だった。
「ジェリー。キミは知ってしまったんだろう? 自分のルーツを」
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