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切なくて残酷で綺麗で8
「ほんとに連絡しないつもりなのか」
連絡はしない、と言う大輝に涼が念を押すように訊く。せめて連絡くらいは……と思っているのだろう。
「ああ」
「会えない上に連絡も取らないでお前は平気なのかよ」
「それは寂しいと思う。でも、会いたくなったらサッカーに打ち込めないから。だから連絡しない」
「お前ってほんと子供の頃から頑固だよな」
そう言って涼は呆れている。俺は2人の会話を黙って聞いていた。そっか、連絡も取らないっていうことは大輝も寂しいと思ってくれるのか。そうしたら会えなくて辛いのは俺だけじゃないんだ。そう思ったら少し嬉しかった。
「お前に会えなくて、湊斗が寂しくなって浮気されてもお前は文句言えないんだからな」
「そうだな」
え? 寂しくて俺が浮気する? そんなことあり得ない。
「浮気なんてしないよ。待つって決めたのは俺なんだから」
「湊斗はそんな健気なこと言わなくていいの。寂しくなったら大輝なんて捨てて他の人に乗り換えたっていいんだからな。俺が許す」
「もう、涼ったら」
「いや、でも涼の言う通りだよ。何年になるかわからないし、その間連絡もしないって言ってるんだから浮気されたって仕方ないと思ってる」
「大輝!」
冗談じゃない。涼がなんて言おうと、大輝がなんて言おうと俺は待つって決めたんだから浮気なんか絶対にしない。
「まぁ、でも湊斗も可愛い顔して頑固だからなぁ。お前たち似たもの同士だな」
涼がそう言って笑う。俺は自分で頑固なのは自覚してる。大輝が頑固だとは思ってないけれど。ということは大輝より俺の方が頑固だと言うんだろうか。そんなのどうだっていい。迎えに来ると大輝は言った。大輝は約束は守る人だから俺は信じて待てるんだ。誰がなんて言おうと。
「明日は俺はバイトだからもう会えないからさ。気をつけて行ってこいよ。で、何年か先、帰国するときは連絡しろよ。お帰りなさいの飲み会を開いてやるから」
「ああ。連絡するよ」
「んじゃ、俺、先に帰るわ」
「え? なんで」
「なんでって馬に蹴られて死にたくないからな。ここからは恋人同士の時間を過ごせよ。じゃあな」
涼はそう言うと荷物を持って帰って行った。残された俺と大輝はしばらく黙ったままだった。
「明日、朝早いんだよな?」
「ああ。朝の便で行くから」
「じゃあ早く帰った方がいいな」
「湊斗……ごめん」
「謝らなくていいよ。大輝の夢なんだから応援するよ」
「湊斗……。離れても好きだから。連絡しなくたっていつだって湊斗のこと想ってる」
大輝の言葉に俺は涙が出てきた。大輝と会えるのは今日が最後だ。最後くらい笑顔で見送りたいのに涙が止まらない。すると、唇に温かいものが触れた。それは大輝の唇だった。個室だったから誰にも見られなくて良かった。これは別れのキスだ。そう思うと余計に涙が溢れてきた。そんな俺を大輝は抱きしめてくれた。この温もりを忘れたくない。大輝の腕の中で俺は思う存分泣いた。
そして翌朝、大輝はたった一言のメッセージを残してドイツへと旅立った。
『会えなくても愛してる』
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