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霧雨が降るように3
まったりとしたブレイクタイムを過ごした後は、企業の終業後の忙しさがやってくる。仕事を終え、家に帰る前に友人とコーヒーを飲んでから帰る。そんな人でカフェは賑やかになる。
ここは観光地には比較的近いし商業地でもあるから平日は近くのオフィスや商業店舗で働く人が多く、土曜日は観光客が多くなる。平日の今日は17時を過ぎたあたりからお客さんがひっきりなしにやってくる。この忙しさは19時過ぎまで続き、20時を過ぎるとまたまったりとした時間が閉店の21時まで続く。
今日も20時を過ぎてお客さんは女性の2人組だけになった。このお客さんはたまに飲みに来てくれる人たちだ。
「よぉ!」
そんな軽いかけ声とともに入ってきたのは友人の涼だった。涼はここから15分ほど歩いたところにある証券会社で働いている。今年になってから始めた一人暮らしのマンションまでもここから歩いて10分ほどで、仕事帰りによく寄ってくれる。
「誕生日おめでとう」
そう言ってカウンター席に座り、鞄からラッピングされたものを出し、渡される。
「誕生日プレゼント」
「開けてもいいか?」
「コーヒー淹れてからな。今日はマンデリンちょうだい」
「了解」
涼はマンデリンとブラジルが好きで、その日の気分でどちらかを決めている。俺はネルフィルターをセットし、ゆっくりと湯を落としていく。コーヒーのいい香りが鼻をくすぐる。
「はい。お待ちどうさま」
「サンキュ。はぁ、落ち着くわ」
「今日は忙しかったのか」
「まぁ、そこそこね。ここでコーヒーを飲むと1日が終わった気がしてさ。あ、プレゼント開けてみて」
物としては小さめだ。なんだろう。包装紙を破かないように丁寧に開けていく。そうして出てきたのはシンプルだけど質の良い本革のパスケースだった。
「この前古くなったって言ってただろう。だから。たまたま良い物見つけたからさ」
涼の言う通り、使っているパスケースは結構年季が入っている。それでもしっかりとした作りなので長く使えている。
「いいね。長く使えそうだ。ありがとう。明日から使わせて貰う」
「気に入って貰えたらなにより」
「気に入ったよ」
「湊斗はシンプルで質のいいのを長く使うよな」
「あまりごちゃごちゃしたのは好きじゃないんだよね」
それはこういった小物に限らず服飾全てに関してで、洋服もブランドや流行を追うのではなくシンプルで質の良いものを着ている。そして、そんな物を大切に長く着る。涼はそう言ったことを知っているから、こういうプレゼントを選んでくれたのだろう。
「湊斗の1つの物を大事に使うっていうのはいいことだと思うけど、恋愛に関してはもう他に目を向けてもいいんじゃないか? もう随分なるんだしさ」
小物の話しから急に恋愛の話しを振られて言葉が出なくなる。誕生日は大輝とした約束があるからどうしても大輝を意識してしまうけれど、今日は優馬さんに告白されたんだ。告白されたのに返事を受け取って貰えないでいるけれど。でも、恋愛ごとということでドキリとしてしまう。
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