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霧雨が降るように4
「なに? どうかしたの? なんかあった?」
さすがに中学からの長い付きあいだけあって、俺のささいな変化にも気がつく。やっぱりごまかせないよな。
「まさか、迎えに来た?!」
まさかな、と言いながらも訊いてくる。もし大輝が俺を迎えに来てくれたなら涼にだって連絡がいっているだろう。俺だけじゃないはずだ。
「違うよ。だって、連絡あった?」
「ないよ。でもさ、あいつが一番大事にしてたのは湊斗だから。俺なんて二の次だからね。だから先に湊斗を迎えに来ると思うんだよね」
大輝が一番大事にしていたもの、か。それがほんとに俺ならいいのに。でも、どちらにしても大輝が迎えに来たわけじゃない。迎えに来てたらこんなに落ち着いてお店なんてやってられない気がする。
「残念ながらそうじゃないよ。あのね……」
優馬さんのことを話そうと思って、まだ店内にお客さんがいることを思い出した。いくら小さい声で話したとしても店の中は静かだから聞こえてしまう。後で話すか。と思ったところで席を立ちレジに来る。帰るみたいだ。
「ご馳走様でした。また来ますね」
「お待ちしております」
これで店には涼だけになった。少し早いけれど、もう今日は店を閉めてしまおう。もう21時近いし。
「ちょっと待ってて」
俺はそう言ってドアのプレートを”CLOSE”に裏返し、カウンターに戻ると自分用に今日のブレンドを淹れる。そして、コーヒーが落ちきったところで、あのさ、と話し始める。
「いつも来る常連さんに告白されたんだ」
「え! 勇気のある子だね」
涼の返しに、女の人じゃないよ、と言うと目を見開いて驚いていた。まぁ、そうだろうな、と思う。いくら俺が同性の大輝と付き合っているからと言って、世の中の普通は男女の組合せだ。だから俺が告白されたと聞けば女性から告白されたと思うのはごく自然なことだと思う。
「どんな|男《ひと》?」
「涼は優馬さんって知らないっけ。デザイナーの」
「デザイナーの優馬さん? 会ったことはないよ。ただ常連さんにデザイナーがいるっていうことだけは聞いたことある」
そうか。涼が来るのは大抵が平日の仕事終わりだ。落ち着いた時間帯に来ることの多い優馬さんとは会ったことがないか。
「で、告白されてどうしたの? 付き合うことにした?」
「大輝がいるのに付き合うわけないだろ」
「もう他の人に乗り換えたって文句は言われないと思うぞ」
涼はたまにこうやって言ってくる。”他の人に”って。俺がまだ大輝のことを好きだと知っていても。涼いわく、迎えに来るって言っていながら、さすがに長すぎると。
「約束したから。大輝は約束は守るやつだろ」
「そうだけど。もし大輝が他の人を好きになってたらどうするの?」
大輝が俺じゃない他の人を好きになっていたら……。考えたことがないわけじゃない。それでも、馬鹿な俺は迎えに来ると言ってくれた大輝の言葉を信じているんだ。
「……」
「ごめん、意地悪言った」
「いいよ。可能性として、ないわけじゃないから」
「で? その優馬さんにはなんて?」
「大輝のことを話したよ。で、断った……んだけど」
「え? なに? 断ったのになにかあったの?」
「うん。返事を受け取って貰えなかった」
そう言うと涼は目を見開いた。
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