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霧雨が降るように6
「でもさ、ほんとに大輝でいいのか?」
「大輝でいいんじゃなくて大輝がいいんだよ」
「ほんと……。湊斗も一途だな」
「大輝だからだよ。大輝は嘘つかないから。だから信じられる。それは涼だって幼馴染みなんだからわかってるだろ」
「そうだけどさ。でも、俺は大輝の友人でもあるけど同時に湊斗の友人でもあるんだよ。友人が辛い思いしてるのを見ていられないよ」
「ありがと。でも、俺は大丈夫だよ。さすがにそろそろ現役引退の頃だろうし。だから残り何年になるかわからないけど、ここまで待ってた年数よりは短いと思うから」
「湊斗も可愛い顔して頑固だよな。でもさ、そこまで言ってくれる人であれば考えてみたっていいんじゃないかと俺は思うよ。大輝が心変わりしているかもしれないんだぞ」
「大輝はそんな人じゃないよ」
そうは言ったものの不安がないわけじゃない。もしかしたら現地で綺麗な人と出会って付き合っているかもしれない。もう俺のことなんてなんとも思ってないかもしれない。でも、信じるしかないじゃないか。
「とりあえず、その優馬さんっていう人のこと知ってみてもいいんじゃない?」
涼のその言葉を聞きながら最後の一口を飲みきり、同じく空になった涼のカップも回収し洗い物を始める。
「知ったとしても大輝しかいないと思うよ」
「意外と今大輝に会ったら幻滅するかもしれないだろ」
「だとしたらそのときに考えるよ」
「自分が幸せになることを考えろよ」
「うん……」
この手の話しは何度しても平行線だ。大輝。迎えに来てくれるよな? 今年来てくれる? 俺たちももう27歳だ。そろそろ現役引退だろう。
「でもさ、涼はそんなに大輝が許せない?」
「そりゃそうだろ。だって会えないのは仕方ないにしてもさ、連絡のひとつもよこさないとか俺には理解不能。友人だからこそ許せない。まして湊斗に辛い思いさせてるんだし」
「だけど、もう現役引退も近いんじゃないかな」
「確かにな。今年か来年か。まさか30歳過ぎてまではやらないよな?」
「どうかわからないけど、30歳にしたって後3年だよ。ここまで待ったこと考えたら、あっという間だよ」
そう。ここまで待ってた年数の方が長いんだ。だから迎えに来てくれるのは待てる。
ただ、俺がひとつ怖いことはと言えば、大輝が心変わりしていないか、ということだ。俺じゃない他の誰かを好きになっているかもしれないし、それはないにしてももう俺に対しての気持ちが消えてなくなっているかもしれない。それだけが不安だ。
そしてそんな気持ちが顔に出ていたんだろう。涼が言った。
「不安が残るなら、ほんとにその優馬さんのこと考えてみた方がいいと思う」
「そんなの優馬さんに失礼だよ」
「湊斗。そんなことで嫌がる相手なら、それもやめた方がいいけどな。俺はさ、大輝に幸せでいて欲しいと思うけど、湊斗に対しても思うんだよ。で、この件に関しては俺は大輝のやり方が気に入らないだけ」
俺に幸せでいて欲しいと言ってくれる涼に対してありがたいと思う。
「大丈夫。今、幸せとはさすがに言えないけど、大輝のことは信じてる。ただそれだけだよ」
「そっか。そこまで言うなら俺はもうなにも言わないよ。でも、ほんとに辛くなったらその優馬さんにしとけ。って、俺、こんど早い時間に来てみよう。優馬さんって人に会ってみたい」
「穏やかで優しいイケメンだよ。どことなく優雅で素敵な人」
「へー。余計に会ってみたい。今度早くに来るわ」
「うん、待ってる」
「そのときは紹介してくれ」
「もちろん」
涼はきっと優馬さんのことを気に入ると思う。というか優馬さんのことを気に入らないという人はいるんだろうか。仕事をしているときはどうかわからないけど、オフではそう感じる。
もし大輝がいなかったら、きっと嬉しいことなんだよな。そう思うと優馬さんに申し訳なく思った。
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