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思い出のシーグラス1
お店の定休日である火曜日。俺は昔大輝と来た海へと来ていた。しかし、12月の海は季節外れすぎて人の姿が見えない。
俺は海が好きで、気持ちを落ち着けたいときは1人で海に来ては水平線を見ながら波の音を聞いている。特に大輝がドイツへ行ってから海に来ることが増えている。今日だってそうだ。先日の自分の誕生日に気持ちが落ちて泣いてしまって、そのあとなかなか本調子に戻れないのでこうやって来たくらいだ。今日も思う存分波の音を聞いてから帰ろう。
砂浜に降りる階段に座り、遠くの水平線を眺める。それはあまりにも遠くて、海がいかに広いかがわかる。そんな海の大きさから考えたら、自分なんて小さな存在だ。そしてザブーンという寄せては返す波の音に耳をやる。この音を聞くと心が落ち着く。
そうやってどれくらい海を見て、波の音を聞いていただろうか。時間も忘れて海を眺めて、波の音を聞いていたので大分気持ちも落ち着いてきた。これで大丈夫。もう泣いたりしない。また大輝を待つことができる。
そう思ったところで立ち上がり、砂浜へ降りてシーグラスを探す。海に来たときにシーグラスを探すようになったのは高校時代、大輝と海へ来てシーグラスを拾ってからだ。何気なく見つけたシーグラスは陽の光を浴びてキラキラと輝いていてとても綺麗だった。もともとガラス細工の好きな俺は、それから海に来るとシーグラスを探すようになった。お店を開店させるときにはガラス細工の置物の中にシーグラスを入れたガラス瓶も飾ったくらいだ。もちろん、シーグラスはよく陽の入る窓のところに置いている。
家にもシーグラスを飾ってはいるけれど、そんなにたくさんシーグラスが落ちているわけじゃないから家にはほんの少ししかない。
大輝とのデートで初めてシーグラスを拾ったあの時、大輝もまたシーグラスを拾って帰った。そしてその後、俺が部屋にシーグラスを飾っているのを見て、俺も飾っていると言っていた。ドイツへ行ったとき、そのシーグラスはどうしただろう。ドイツに持って行っただろうか。それとも実家の部屋に置いたまま?まさか捨ててはいないよな。大輝も飾っているといいのだけど。
俺はあのときからシーグラスを大事に飾っている。それは綺麗だからというのもあるけれど、シーグラスを見ると大輝を思い出すから。初めてシーグラスを見たあの高校生の頃を。
シーグラスは俺と大輝を結ぶものだ。あのとき初めてシーグラスを拾ってからずっと。
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