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伝わる気持ち2

「湊斗くん?」  優馬さんの声で我に返った。大輝のことを考えたらダメだ。寂しくて、悲しくて泣きたくなるのは当然だ。 「あ、すいません。なんでもないです」 「そう? 疲れてるんじゃない? お店終わった後だから疲れてるよね。ごめんね」  俺が大輝のことを考えて泣きそうになったから優馬さんを謝らせてしまった。優馬さんは悪くないのに。 「いえ、大丈夫ですよ。いや、今度自分で作ってみようかなって考えてました」  違う。考えていたことは大輝のことだ。でも、牡蠣のアヒージョは簡単だし、1人分でも余ることはないから作ってみようと思ったのはほんとだ。 「湊斗くんの手料理を食べれる人は幸せだね。いつか食べれたらいいな」 「……あの」 「なんてね。そんなこと言ったら困っちゃうよね。まぁ、いつかそうなったらいいなって夢だから」  俺はまだ大輝が好きだけど、こうやって優馬さんと時間を共有して色々と知っていけば好きになることはあるんだろうか。遠くで会えない人より近くで会えるっていうメリットはある。でも、どうなるかは俺にもわからない。 「あ、これも食べてみて。美味しいから」  そう言って優馬さんはクロケータス・デ・ハモンを指さす。生ハムのクリームコロッケ。どんな味なんだろう。そう思って一口食べるとクリーミーな味の中に生ハムの塩気が効いていてなかなか美味しい。  カニクリームコロッケと言うと子供が好きそうなメニューだけど、これは大人におすすめのメニューだ。お酒にも合いそうだ。 「クリームコロッケに生ハムってどういう味になるのかなと思ったら塩気が効いてて美味しいですね。お酒にあう」 「だよね。ワインどんどん飲んで」  そう言ってワインをついでくれる。うん、結構あうな。  パエリア、アヒージョ、クロケータス・デ・ハモンと次々とお腹に納めていって、最後のデザートも優馬さんおすすめにした。 「これはね、タルタ・デ・サンティアゴって言ってアーモンドケーキだよ。と言っても小麦粉は使ってないんだけど」 「え。小麦粉を使ってないんですか。どんな味なんだろう」 「食べてみて。なかなか美味しいから」  優馬さんに勧められて、一口食べてみる。小麦粉を使わないケーキというのが想像できなかったけれど、意外としっとり、さっくりと焼き上がっている。パウダーシュガーがかかっていて甘いのかと思ったら甘すぎることはなく、素朴でシンプルな味だった。 「修道院で作られたのが始まりみたいだよ」 「へぇ。だから素朴なのかな? デザートって言うと甘いっていうイメージがあるけど、これは甘すぎなくて甘いのが苦手な男性でも食べられますね」 「湊斗くんはお菓子も作る?」 「作りますよ。料理部で結構作ってました。これ、レシピあったら作ってみたいな」 「結構気に入った?」 「はい」  高校生の頃、俺の作るスイーツを食べていた大輝は今はいない。それでもスイーツを作るというと大輝を思い出してしまうのは癖なのか。でも、今はお店に2種類だけど出している。つまりお客さんも食べているわけだ。
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